おなかに痛みがある場合、一般的には胃腸の病気が原因で痛みが出ていると考えられがちです。

しかし、おなかの中には胃腸だけではなく、他にも多くの臓器があります。

例えば、左下腹部(おなかの左下)に痛みがある場合、腸炎などの胃腸の病気だけではなく、他の臓器の病気の可能性もあります。

男性では前立腺・精巣の病気、女性では卵巣・子宮の病気も考えられます。

どんな痛みなら急いで受診すべきなのか、どんな病気の可能性があるのか、ご説明します。

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おなかの左下には何があるか

このイラストには、食べ物の消化や吸収に関係する臓器が描かれています。実際には、他にも多くの臓器があります。「おなかの痛み=胃腸の病気」とは限りません。

このイラストでは、胃や腸など食べ物の消化や吸収に関連した臓器が描かれています。

しかし、おなかの中には胃や腸以外にも、色々な臓器があります。

例えば、尿管、膀胱があります。

男性では前立腺があります。女性では、子宮、卵巣、卵管があります。

そのため、おなかが痛いからと言っても、単純に胃や腸の病気が原因とは言えないことも多いのです。

痛み方でどのような病気か、推察出来ます

おなかの痛みは、内臓痛、体性痛に分けられます。

痛みの種類によって、体の中でどのような不具合が起きているのかを推察することができます。

痛む部分がはっきりしない内臓痛

一般的に多く起こりがちなのは、「内臓痛」と呼ばれる腹痛で、おそらく誰でも一度は経験したことがあるのではないでしょうか。下記のような痛みが特徴です。

内臓痛の特徴
  • 痛い場所がはっきりしない
  • 押されるような、しぼられるような鈍い痛み
  • 痛みに波がある

内臓痛は、消化管などの内臓を取り巻く膜が痙攣(けいれん)して縮こまったり、内圧がかかったりして、そこにある神経が刺激されて起こるものです。

内臓痛を引き起こすよくある原因は、暴飲暴食や刺激の強いもの(アルコールや冷たい水の飲み過ぎ、香辛料や脂肪の多い食事)によるものや、ウイルスの感染による胃腸炎です。

これらの場合は、数日ほど安静にしていれば自然に治ることがほとんどです。

痛む部分がはっきりしている体性痛

一方、突き刺すような痛みが続くようなら「体性痛」(たいせいつう)である可能性があります。

体性痛は、おなかの中にある腹膜に炎症が加わったときに起こるもので、緊急手術が必要となるケースもあります。

そのようなケースとして有名なのが 虫垂炎(いわゆる「もうちょう」)ですが、虫垂炎では右下腹部(おなかの右下)が痛くなることが多いです。

虫垂炎
虫垂炎(いわゆる「もうちょう」)では、おなかの右下に激しい痛みが起きることが多いです。
体性痛の特徴
  • 痛む場所が限定されている(はっきりしている)
  • 突き刺すような激しい痛み
  • 痛い部位を押すと痛みが増す
  • 歩いたり身体を動かしたりすると痛みが響く

このように、左下腹部の痛みといっても、どのような痛みなのかという情報があるだけで、考えられる病気や処置が大きく変わってきます。

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正しい診断のために医師に伝えたい情報とは

病院では、患者様の話を聞いたり、身体診察(視診、触診など)を行い、痛みの原因となっている病気の推測をします。

その推測をもとに、必要に応じて検査を行い、どの臓器が痛みを引き起こしており、どんな病気なのかを診断していきます。

大事なのは、診断に至るための情報を医師にしっかり伝えることです。

下記のようなことを伝えると診断に役立ちます。

医師に伝えると診断に役立つこと
  • どのような痛みか:ズキズキ、刺すような痛み、差し込むようなにぶい痛み(鈍痛)など
  • どのように発症したか:突然、急に起こった、徐々に起こったなど
  • 痛みはどのくらいの期間続いているか:ずっと痛みが続いている、痛みに波がある、など
  • 痛みのピークはいつごろか:痛くなってから1時間後くらいなど
  • 痛みの程度は変化するか:だんだん強くなる、しばらくしたら痛くなくなる、痛みは変化しない、など
  • 何をすると痛みが変わるか:食事、排便、深呼吸、身体を動かす、など
  • 腹痛がある間はどう過ごしていたか:横になっていた(眠れた/眠れなかった)、仕事や家事をしていた、食事をした、便通があったなど

この他にも、普段食べ慣れないものを食べた、海外旅行に行っていた、今までに同じような腹痛を起こしたことがある、今までに手術をしたことがあるなど、思い当たることや違和感があれば伝えてください。

飲んでいる薬、漢方、サプリメント、健康食品などを知らせることも診断の助けになります。

それでは、左下腹部の痛みを引き起こす病気について、原因となる部位別(腸、泌尿器、血管)や、性別(男性、女性)に分けて解説していきます。

左下腹部痛を引き起こす胃腸の病気

左下腹部痛を引き起こす腸の病気としては、主に次のようなものが挙げられます。

左下腹部を引き起こす胃腸の病気
  • 便秘
  • 過敏性腸症候群
  • 腸閉塞
  • 腸炎(特に、虚血性腸炎)
  • 大腸憩室炎
  • 大腸がん

便秘

左下腹部痛の原因の一つに便秘があります。

大腸の中でも、特に左下腹部にあるS状結腸は、便が溜まりやすい場所です。

便秘が長引いて便が貯留すると、左下腹部の違和感や張り(膨満感)が出現しやすくなります。

大腸がんが原因で腸がふさがり、便秘になっている場合もあるため、便秘が続く場合は注意が必要です。

便秘のイラスト
便秘により、おなかの痛み、違和感、張り(膨満感)が出現しやすくなります。

便秘や大腸内視鏡検査を専門とする医師が書かれた本です。

便秘を起こしやすい人の腸の特徴や改善法が解説されており、おすすめです。

過敏性腸症候群

過敏性腸症候群は、

  • 腹痛
  • 腹部不快感(腹痛とは言えない不快な感覚)

が繰り返し起こるのに、血液検査、内視鏡検査などをしても原因がはっきりとしないという概念の疾患です。

腹痛としては、おなかの左下の痛みを訴える方が比較的多いようです。

過敏性腸症候群の腹痛、腹部不快感は

・排便によって改善する
・排便の頻度の変化で始まる
・便形状(便の見た目)の変化で始まる

といった特徴があります。

排便の状況によって、以下の4タイプに分けられます。

・便秘型:硬い便のことが多い
・下痢型:軟便のことが多い
・混合型:硬い便、軟便の繰り返し
・分類不能型:上記のいずれにも当てはまらない
※Rome III: The Functional Gastrointestinal Disorders, 2006より引用

日本では、過敏性腸症候群の患者様が多いとされています。

わが国における過敏性腸症候群の有病率は人口の14.2%

消化器病診療(第2版) 日本消化器病学会監修


以下のような方は、過敏性腸症候群かもしれません。

  • 昔から胃腸が弱いと感じている
  • すぐにトイレに行ける場所にいないと不安
  • 繰り返しおなかの調子が悪くなるため検査を受けたが、異常なしと言われた

こちらの本ではイラストを使用し、分かりやすく過敏性腸症候群のことが解説されており、患者様にお勧めの書籍です。

腸閉塞(ちょうへいそく)

腸閉塞とは、何らかの理由で腸がふさがることです。

消化物が通過しにくくなると、おなかの痛みや腹部膨満感(おなかの張り)、吐き気や嘔吐などの症状が出てきます。

腸閉塞を起こす原因として、がん、鼠径(そけい)ヘルニアなどがあります。

ヘルニアとは、臓器が本来ある場所から飛び出してしまう状態のことです。

鼠径(そけい)ヘルニアでは、腸の一部が足の付け根にある筋肉の穴に入り込んでしまった状態になります。

飛び出したまま戻らない状態(嵌頓;かんとん)が続くと、腸が締め付けられて血流がさまたげられ、強い痛みが出ます。

大腸がんにより腸がふさがり、便秘、腹痛などの症状が起きている場合があります。

腸炎(特に、虚血性腸炎)

何らかの原因で腸に炎症が起こった状態を腸炎といいます。

S状結腸に炎症が起こると、左下腹部痛が起こります。

多いのは、食品などを介して体内に入った悪い細菌やウイルスなどが感染し、身体の防御機構(免疫)が対応した結果として炎症が引き起こされるケースです。腹痛のほかに下痢が起こることが多いです。

また、S状結腸は虚血により炎症が起きる”虚血性大腸炎”を起こしやすいことで知られています。

S状結腸に虚血性大腸炎が起きた場合、左下腹部痛とともに血便が認められることが多いです。

大腸憩室(けいしつ)炎

憩室(けいしつ)とは、慢性的に腸内の圧力が高いために、腸の壁の弱い部分が落ち込んでできたポケット状のくぼみのことです。

これが大腸にできると大腸憩室と呼ばれます。

憩室そのものは良性ですので、症状がなければ様子見で大丈夫です。

しかし、大腸憩室の中に細菌が入り込んで炎症を起こすと、痛みを生じることがあり、これを大腸憩室炎と言います。

S状結腸の憩室に炎症が起きると、左下腹部痛として自覚されます。

炎症がひどくなると、腸に穴があいたり、手術が必要になる場合があるため、速やかに病院を受診しましょう。早めに抗生剤を投与することで、重症になるのを防ぐことが出来ます。

また、大腸憩室は出血を起こし、血便の原因になることもあります。

大腸憩室
大腸憩室(けいしつ)があると、炎症によりおなかが痛くなったり、出血して大量の血便が起きる場合があります。

大腸がん

S状結腸やその周辺にがんが発生し、がんが進行すると腸の内容物が通過しにくくなり、左下腹部痛を引き起こす可能性があります。

進行した大腸がんのイメージ。大腸の中が狭くなり、内容物が通過しにくくなります。

大腸がんは、男女とも40歳ころから発症することが多く、年齢を重ねるほど発症する可能性が高くなってきます(下記のグラフ参照)。

大腸癌年齢階級別罹患率2015年
男性、女性とも40歳ころから大腸がんの発症が増えていきます。

大腸がんは、病態が進行するまで自覚症状がほとんどないため、検診でおなじみの便潜血反応や、大腸カメラで早期発見することが大事です。

大腸がんの早期発見については、下記の記事もご参照下さい。

左下腹部痛を引き起こす胃腸以外の病気

左下腹部痛を引き起こす腸以外の病気としては、主に下記のようなものが挙げられます。

左下腹部痛を引き起こす胃腸以外の病気
  • 尿路感染症
  • 尿管結石症
  • 腹部大動脈瘤

※他にもありますが、代表的な病気のみ載せています。

尿路感染症

尿は腎臓で作られ、尿管を通って膀胱に溜められ、トイレに行くと膀胱から尿道へ押し出されて排尿します。

この一連のルートを尿路といい、尿路のどこかで感染症が起きた場合に”尿路感染症”と呼ばれます。

尿路感染症は、感染が起こっている場所によって、膀胱炎と腎盂腎炎に分類されます。

膀胱炎”は、下腹部を中心に痛みを引き起こし、左下腹部痛として自覚される場合があります。

膀胱炎が悪化して、細菌が腎臓まで達すると”腎盂腎炎(じんうじんえん)”となります。

腎臓は左右に2つあり、脇腹と背骨の中間あたり(背部)に位置します。

左側の腎臓が腎盂腎炎になった場合は、左の脇腹から腰にかけての痛みが起こります。

発熱や嘔吐、全身のだるさ(倦怠感)を伴うことが多く、血尿が出ることもあります。

腎盂腎炎で症状が強い場合には、入院、点滴での抗菌薬投与が必要になります。

尿管結石症

尿管結石は、腎臓から尿を膀胱に運ぶための管(尿管)に石が詰まることで、脇腹もしくは背中を中心として、激痛が起こります。

時間帯としては、夜から明け方に発症することが多いです。

左の尿管に結石が詰まると、左下腹部痛を引き起こす場合があります。

腹部大動脈瘤

腹部大動脈瘤

心臓から送り出された血液は、大動脈を通って全身に向けて送られます。

消化管をはじめとした内臓や下半身へとつながる大動脈を腹部大動脈といい、そこにできた瘤(こぶ)を”腹部大動脈瘤(ふくぶだいどうみゃくりゅう)”といいます。

多くは動脈硬化が原因で起こります。

初期では症状があまり出ませんが、大きくなると、おなかにドクンドクンと拍動する膨らみを触れるようになります。

長い期間気がつかずに瘤が大きくなると、周りの臓器を圧迫するため、腹痛が出ることもあります。

破裂したり破裂寸前のときには強い腹痛が起こります。左下腹部痛として自覚される場合もあります。

瘤が大きくなって破裂してしまうと命に関わるため、状態によっては、緊急手術が必要になります。

左下腹部痛を引き起こす男性特有の病気

左下腹部痛を引き起こす男性特有の病気としては、主に下記のようなものが挙げられます。

左下腹部痛を引き起こす男性特有の病気
  • 前立腺炎
  • 精巣上体炎
前立腺、精巣上体に炎症を起こすと下腹部痛を引き起こします。左下腹部痛として認識される場合もあります。

前立腺炎

前立腺に細菌が感染することなどをきっかけに炎症が起こる病気です。

発熱、残尿感、排尿時不快感、頻尿、下腹部が痛む場合もあります。

排尿するときに痛みがあったり、排尿が困難であったり、頻尿になったりすることもあります。

長時間のドライブやサイクリング、過度の飲酒などが細菌感染のきっかけになります。

前立腺は下腹部にあるため、炎症の波及の仕方によっては、左下腹部痛を引き起こします。

精巣上体炎

精巣にクラミジアや淋菌、大腸菌などの細菌が入り込んで感染し、炎症を起こす病気です。

陰嚢が腫れて熱をもち、押すと痛みがあることが特徴です。

この炎症の刺激が神経を伝わって左下腹部の痛みとして感じることがあります。

左下腹部痛を引き起こす女性特有の病気

左下腹部痛を引き起こす女性特有の病気としては、主に下記のようなものが挙げられます。

左下腹部痛を引き起こす女性特有の病気
  • 異所性妊娠(子宮外妊娠)
  • 子宮内膜症
  • 卵巣茎捻転
  • 子宮筋腫
女性の腹痛

異所性妊娠(子宮外妊娠)

妊娠の可能性のある女性で、いきなり下腹部が激しく痛み、性器からの出血(不正出血)があるようなら「異所性妊娠(子宮外妊娠)」の可能性があります。

本来なら子宮内に着床するはずの受精卵が、卵管や卵巣など別の場所にとどまってしまうという病気です。

早期発見が重要なので、躊躇せずに病院に行ってください。

子宮内膜症

本来は子宮内にあるはずの子宮内膜が、子宮外にできてしまって増殖してしまう病気です。

卵巣、腹膜、子宮と直腸の間にあるダグラス窩(か)という部分によくできます。

腸や肺などにもできることがあります。

子宮内膜症では月経痛(生理痛)や下腹部痛、腰痛、性交痛が起こることが多く、部位によって左下腹部の痛みとして感じることもあります。

卵巣茎捻転

女性の場合、下腹部には卵巣や子宮があります。

突然、下腹部に激痛が起きて、痛みが続くようなら”卵巣茎捻転(らんそうけいねんてん)”かもしれません。

卵巣のできものが原因で卵巣がねじれて痛みが出ます。

特に以前から卵巣にできものがあることが分かっている場合はこの病気である可能性が高いので、その場合は医師にそのことを伝えてください。

子宮筋腫

子宮内の筋肉からできる良性の腫瘍を子宮筋腫と呼びます。

女性ホルモンの分泌量と関係して肥大化しますが、閉経とともに縮小が見られます。

子宮筋腫があると、月経のときに起こる下腹部痛が強くなる場合があります。

子宮筋腫のできる場所によっては、左下腹部に痛みを感じることがあります。

また、痛み方としても、にぶい痛みのこともあれば、押し寄せるような強い痛みを感じることもあります。

こんな場合はすぐに病院へ

左下腹部の痛みが下記のようなものであれば、我慢せずになるべく早く医療機関(内科、消化器内科、救急外来など)を受診してください。

緊急性が高い症状
  • 強い痛みが数時間にわたり続いている
  • 痛みのために眠れない/寝ていても夜中に痛みで目覚めてしまう
  • 左下腹部だけでなく、同時に他の部分も痛んでいる
  • 歩くなどの振動で、痛みがひどくなる
  • 痛みで腹筋に力が入ってしまう

また、左下腹部の痛みに加えて、下記のような症状がある場合も、早めに受診するようにしましょう。

  • 熱が出ている
  • 血便や下血がある
  • 何度も吐いてしまっている
  • ダイエットしているわけではないのに体重が減ってきている

腹痛の原因を調べるための検査

腹痛の原因を調べる検査としては、腹部超音波(エコー)、腹部CTが重要です。

腹部超音波(エコー)について詳しく説明した記事です。

腹部CTは、腹部超音波(エコー)検査よりも一般的に情報が多い検査です。状況に腹部超音波と腹部CTの使い分けが重要になります。

まとめ

左下腹部痛(おなかの左下の痛み)が起きている場合に考えられる病気について、まとめました。

一般的にはおなかが痛い場合、胃腸の病気が原因と考えられがちです。

しかし、おなかの中には胃腸だけでなく、色々な臓器があります。

尿路の病気、血管の病気などもあり得ますし、男性なら前立腺・精巣の病気、女性なら卵巣、卵管の病気も考えられます。

病院を受診し、適切な検査や治療を受けることが大切です。

なお、以下の記事では、右下腹部が痛い場合について説明しています。よろしければ、合わせてお読みください。

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