2019年5月~6月の間で、3つの学会で発表する機会をいただきました。

いずれも、私が専門としているESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)に関する発表をして参りました。

ESDは、胃カメラや大腸カメラから出した電気メスで、食道・胃・十二指腸・大腸の腫瘍(がん、腺腫など)を切除する比較的新しい治療法です。

昔であれば、おなかを切らなければ治せなかった癌(がん)でも、今ではESDにより、おなかを切らなくても治せるようになってきました。

ESDは、患者様にとって体への負担が少ない優れた治療ですが、技術的な難易度が高く、比較的長い時間が必要で、穿孔(せんこう:胃腸の壁に穴があくこと)などのリスクが比較的高いことなどの問題もあります。

そのため、私はESDの技術的な難易度を下げ、安全かつ効率的に行う方法を研究しています。

その一つが、トラクション法です。

トラクション (traction)は、日本語で「牽引(引っぱること)」という意味です。

ESDでは、胃カメラや大腸カメラから出した電気メスで病変を切除します。

外科手術と違い、左手などで病変を固定して、右手で切るといった動作が出来ません。

そのため、ESDでは、病変に対して、有効な力が伝わりにくい場合があります。

例えるなら、ステーキを切るとき、フォークを使わずに、ナイフだけで切るような感覚でしょうか。

トラクション法は、外科手術における左手に相当する機能を持ちます。

トラクション法にも色々ありますが、私は”S-Oクリップ”という新しい処置具を用いたトラクション法を研究しています。

S-Oクリップ
S-Oクリップを用いると、切除したい部位に適切な力が加わり、安全かつ効率的にESDを行うことが出来ます。

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第97回日本消化器内視鏡学会総会

2019年5月31日(金)~6月2日(日)グランドプリンスホテル新高輪・国際館パミール(東京・品川)で開催された日本消化器内視鏡学会総会に参加しました。

今回は、胃の腫瘍(胃がん・胃腺腫)に対するS-Oクリップを用いたESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)の発表して来ました。

S-Oクリップは大腸ESD用として開発された経緯があり、胃のESDで用いるのはまだ一般的ではなく、使用上の工夫が必要になります。

そのため、私は胃のESDでS-Oクリップを用いるための工夫に関する英語論文を、2019年4月にVideoGIEという学術誌から発表しています。

動画についてはYouTubeからご覧いただけます。

当科での過去のデータの分析では、S-Oクリップの使用により、胃ESDにかかる時間が約40%短縮されました。

時間が短くなったことは、ESDの難易度が下がり、効率的になったことを示唆しています。

安全面にも良い影響を及ぼすでしょう。

以上のことから、S-Oクリップは、大腸ESDだけではなく胃ESDにおいても有用と考えております。

現在、S-Oクリップの使用の有無で治療の結果にどのような差が出るか、過去のデータを分析した論文を投稿中です。

第108回日本消化器内視鏡学会関東支部例会

2019年6月8日(土)~9日(日)シェーンバッハサボー(東京・永田町)で開催された日本消化器内視鏡学会関東支部例会に参加しました。

今回はビデオワークショップ「ESD困難症例に対する工夫」のセッションで、胃潰瘍瘢痕を合併した胃がんのESDに関する治療上の工夫を発表しました。

胃潰瘍瘢痕を合併すると、粘膜の下の組織が固くなります。

ESDでは粘膜の下の組織(粘膜下層)を剥がすわけですが、胃潰瘍瘢痕があると粘膜の下の組織が固くなり、さらに剥がせるスペースが狭くなるため、誤って胃の筋層を傷つけて穿孔(胃壁に穴があくこと)が起こるリスクが高くなるなどの問題があります。

S-Oクリップを用いると、胃潰瘍瘢痕があっても粘膜下層の展開が良くなるため、穿孔のリスクが下がる可能性があります。

今回の当科の検討では、穿孔例はありませんでした。

また、いずれの症例でも、胃がんは完全に切除されていました(一括完全切除率100%)

S-Oクリップの使用により、胃潰瘍瘢痕を伴う難しい胃がんのESDでも、安全、確実に治療出来る可能性があります。

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第4回徳洲会消化器がん研究会

2019年6月15日(土)、大阪のTKPガーデンシティ東梅田で開催された”徳洲会消化器がん研究会”に参加しました。

徳洲会グループ全体の会のため、全国から多くの方が参加されていました。

今回はがん遺伝子、抗がん剤治療、カテーテル治療、がん疼痛治療などの最新の話題に関する発表がありました。

普段はあまり聞くことが出来ないお話を聞けて、とても勉強になりました。

岸和田徳洲会病院に在籍中にお世話になった先生方へご挨拶出来て良かったです。

今後も機会があれば参加したいと思います。

私は十二指腸腫瘍(がん・腺腫など)のUnderwater ESDという新しいESDの方法に関する発表をして来ました。

従来、ESDはガスを送気して膨らませた腸管の中で行われてきましたが、Underwater ESDは浸水下でESDを行う新しい方法です。

私は2018年に、大腸腫瘍のUnderwater ESD、十二指腸腫瘍のUnderwater ESDに関する英語論文を発表しております。

今回の発表では、自分の論文の内容を引用しながら説明させていただきました。

動画についてはYouTubeからご覧いただけます。

十二指腸ESDは穿孔のリスクが高く、難易度が非常に高いとされています。

ESDに限らず、十二指腸腫瘍の内視鏡治療は他の部位に比べて難易度、リスクが高いため、治療法については多くの議論がなされています。

十二指腸腫瘍は稀ですが、最近は他院からご紹介を受けるケースが増えてきました。

今後も安全・確実な治療が出来るよう工夫を重ねていきたいと考えております。

帰りは楽しみにしていた大阪名物をいただきました。

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