米国消化器内視鏡学会の学術誌 VideoGIE (2018年12月号) から十二指腸腫瘍(がん、腺腫など)に対する新しい内視鏡治療法(Underwater ESD)を発表しました。

光栄なことに同月号のEditor’s choiceに選んでいただきました。

・論文タイトル
Underwater endoscopic submucosal dissection in saline solution using a bent-type knife for duodenal tumor

・誌名、発表年、号、ページ
VideoGIE 2018; 3(12): 375-377

論文を読みたい方は、以下のボタンからアクセス出来ます。

動画はYou Tubeでもご覧いただけます。

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ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)とは

今回発表したのは、新しいESDの方法になります。

論文の内容を説明する前に、ESDについて簡単にご説明します。

ESDは、胃カメラや大腸カメラの先から出した電気メスで、消化管(食道・胃・十二指腸・大腸など)の腫瘍(がん、腺腫などの良性腫瘍など)を切除する治療法です。

ESDとは「Endoscopic Submucosal Dissection」の略語で、日本語では、「内視鏡的粘膜下層剥離術」と言います。

内視鏡的~と名前が付いていますが、この内視鏡とは、胃カメラ・大腸カメラのことです。

ESDでは、外科手術と違い、おなかや胸を切らなくても癌を切除することが出来るため、体にキズは出来ません。

また、胃や腸が小さくなったり、短くなったりするようなことがないため、体への負担が少ない治療と言えます。

ESDに関しては、以下の記事に詳しくまとめてあります。興味のある方は、ご覧になって下さい。

十二指腸腫瘍の治療におけるESDの位置付け

ESDは、2000年ころに日本で開発された比較的新しい治療法です。

日本では急速に普及し、食道・胃・大腸の腫瘍(がん、腺腫などの良性腫瘍)に対する一般的な治療になっています。

しかし、ESDはまだ十二指腸腫瘍の一般的な治療法にはなっていません。

その理由は以下の通りです。

ESDが十二指腸腫瘍の一般的な治療になっていない理由

・十二指腸の壁は薄く、ESD術中に穿孔(穴があくこと)が起こりやすい
・膵臓からの消化液の作用で、ESD術後にも穿孔が起こりやすい
・十二指腸に穴があくと重症になりやすい
・粘膜の下の組織(粘膜下層)のスペースが狭く、切除が困難
・カメラ(内視鏡)を操作するのが難しい

一方で、十二指腸腫瘍の外科手術は体への負担が大きい術式になる場合があり、治療法の選択に悩まされます。

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液体で膨らませた消化管内でのESD(Underwater ESD)

今までのESDは、ガスで膨らませた消化管(食道・胃・十二指腸・大腸など)の中で行われてきました。

従来のESDのイメージ。ガス(空気または二酸化炭素)で膨らませた消化管の中で行われています。

今回、私が論文で報告した方法は、液体で膨らませた十二指腸の中でESDを行う、という新しい方法です。

英語では、Underwater ESDと呼んでいます。

GIE(Gastrointestinal Endoscopy)という学術誌の2018年5月号で、大腸でのUnderwater ESDを発表しており、今回はその十二指腸への応用という内容になります。

液体として使用可能な物質は色々と考えられますが、今回発表した論文においては、生理食塩水を用いました。

Underwater ESDのイメージ。生理食塩水などの液体で膨らませた消化管の中で行われます。

Underwater ESDで得られる代表的な利点として、以下の4つがあります。

Underwater ESDの利点

・浮力
・水圧
・光の反射が抑制される
・吸熱効果

これらがESDにおいて利点となる理由について述べます。

浮力

生理食塩水の中では、浮力が重力と逆側に働きます。

これは、アルキメデスの原理で説明されます。

流体中の物体は、その物体が押しのけている流体の重さ(重量)と同じ大きさで上向きの浮力を受ける。

アルキメデスの原理

そのため、病変が重力の下側にあっても、粘膜が浮かび上がり、粘膜の下にカメラ(内視鏡)が入り込みやすくなります。

Underwater ESDでは、病変が重力の下側にあっても粘膜が浮かび上がり、粘膜の下にカメラ(内視鏡)を潜り込ませやすくなります。そのため、病変の下の組織(粘膜下層)を剥がしやすくなり、病変を切除しやすくなります。

ESDでは、病変の下の組織(粘膜下層)を剥がすことで病変を切除します。

浮力により粘膜が展開すれば、粘膜下層を剥がしやすくなり、病変を切除しやすくなります。

水圧

ESDで使用されるカメラ(内視鏡)には、送水機能を持ったものが使われます。

生理食塩水の中で送水すると水圧が生じ、粘膜を展開することが出来ます。

粘膜を展開することで、カメラ(内視鏡)の先端を病変の下の組織(粘膜下層)に近接させることが出来るため、病変の下の粘膜下層を剥がしやすくなり、病変を切除しやすくなります。

十二指腸では、他の臓器と比べ、粘膜の下の組織(粘膜下層)のスペースが狭いことが多いです。

そのため、十二指腸でのESDでは、他の部位のESDと比べ、粘膜の下にカメラ(内視鏡)の先端を潜り込ませるのが難しいことがよくあります。

このような状況で水圧を利用すると、粘膜の下にカメラ(内視鏡)の先端を潜り込ませやすくなります。

Underwater ESDでは、内視鏡からの送水で発生する水圧で粘膜を展開出来るため、粘膜の下へカメラ(内視鏡)の先端を潜り込ませやすくなります。この際、ガス中と違い、水しぶきによる視野の障害が起こらないのがポイントです。

なお、送水により粘膜を展開するのは、通常のESDでも行われていました。

しかし、跳ね返ってきた水しぶきがカメラのレンズに付着し、視野がとれない状況になる場合があります。

Underwater ESDでは、液体中にカメラのレンズがあるため、水しぶきで視野がとれなくなることがありません。

そのため、”水圧で粘膜を展開→カメラ(内視鏡)の先端を粘膜の下に潜り込ませる→粘膜下層を剥離”という一連の動作を円滑に行うことが出来ます。

光の反射が抑制される

通常のESD(ガス内でのESD)とUnderwater ESDでは、同じ場所を見ていても、以下の写真のような視野の違いが出ます。

通常のESD(左)とUnderwater ESD(右)の視野の違い。左では、矢印の内側はぼんやりして見えにくいですが、これは光の反射の影響です。右では、光の反射がなく、透明感のある視野になっており、矢印の内側がよく見えます。

この視野の違いについて、ご説明します。

カメラ(内視鏡)からは光が出ており、それにより食道・胃・大腸などの中を観察することが出来ます。

しかし、このカメラ(内視鏡)から出る光が反射して、術野が見えにくくなる場合があります。

生理食塩水の中では、光の反射により視野が見えにくくなるという現象が改善されます。

そのため、Underwater ESDでは、術野が見えやすくなり、切除すべき部位を見誤る可能性を減らすことが出来る可能性があります。

十二指腸では、粘膜の下の組織(粘膜下層)のスペースが狭く、見えにくいことが多いため、Underwater ESDによる視野の改善効果は有用と考えられます。

吸熱効果

吸熱効果とはエネルギーを熱として吸収する、つまり負の反応熱を持つ化学反応です。

身近な例として、夏に行われる“うち水”があります。

水が気化するときに熱を吸収することを利用して、地面の温度を下げることが出来ます。

Underwater ESDでは、似たような効果が起こっていると考えられます。

以下は、通常のESD(ガスで膨らませた消化管内でのESD)からUnderwater ESDへ切り替えた症例の切除検体です。

通常のESDからUnderwater ESDへ切り替えた症例の切除検体。検体の色が、左右で違います。熱の影響の違いが影響した可能性が考えられます。

通常のESDで切除した領域は赤くなっており、Underwater ESDで切除した領域は薄い赤色をしています。

元々、この病変の色は薄い赤色をしていました。

Underwater ESDで切除した領域は、色はほとんど変化がありません。吸熱効果により、検体への熱の影響が抑えられた可能性が考えられます。

通常のESDで切除した領域は、赤くなっており、これは電気メスで切除する際に生じた熱による変化の可能性が考えられます。

この吸熱効果が、ESDでどのように作用するかは、今のところ不明です。

十二指腸では筋層が薄いため、熱の影響が及ぶと、遅発性穿孔(ESD術後に消化管の壁に穴があくこと)の懸念があります。

Underwater ESDでは、電気メスで切除中に発生する熱が筋層に波及する効果が抑えられ、遅発性穿孔のリスクを軽減するかもしれません。

まとめ

今回、VideoGIEから発表した論文の内容を簡潔に述べて来ました。

Underwater ESDには従来のESDでは得られない利点があり、難易度が高い十二指腸でのESDで有用と考えられます。

今回発表した論文は、以下からアクセス出来ます。

また、今回の発表の元となる論文については、以下の記事でまとめてあります。

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