ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)

湘南藤沢徳洲会病院・内視鏡内科、医師の永田充です。

食道がん、胃がん、十二指腸がん、大腸がんの治療法について、皆様はどのようなイメージをお持ちでしょうか。

「内視鏡治療は小さな大腸ポリープなどには出来るけど、大きながんには外科手術あるいは抗がん剤治療でないと治せない」というイメージをお持ちの方もいらっしゃると思います。

確かにひと昔前まではそうでした。

EMR(内視鏡的粘膜切除術)という内視鏡治療の方法はあったものの、小さながんにしか適応がなく、大きながんは外科手術になるのが常識でした。

しかし、2000年頃から佐久総合病院、岸和田徳洲会病院などでESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)という新しい治療法の研究が進み、徐々に全国に普及していきました。

現在では、ESDは食道・胃・大腸の早期がんに対する標準的な治療法になっています(十二指腸については、ESDの難易度が高く標準的な方法とは言えないものの、色々な工夫がなされて来ています)。

私はESDの開発施設である佐久総合病院、岸和田徳洲会病院でESDを学び、現在は湘南藤沢徳洲会病院で日々、ESDに取り組んでおります。

ここでは、食道・胃・十二指腸・大腸がんの内視鏡治療である、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)についてご説明します。

ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)とは

ESDとは「Endoscopic Submucosal Dissection」の略語です。日本語では、内視鏡的粘膜下層剥離術と言います。

食道、胃、十二指腸、大腸の壁は、大まかに言うと粘膜層、粘膜下層、筋層という3つの層からできています。

例えば、胃の壁は下の図のようになっています(食道、十二指腸、大腸も似たような構造をしています)。

がんは最も内側の層である粘膜層から発生します。成長するとがんは徐々に横にも広がりますが、根も深くなっていき、粘膜下層、筋層へ浸潤していきます。

ESDは胃カメラあるいは大腸カメラで、消化管の内側から粘膜層、粘膜下層までを剥離し、病変を切除するという治療法です。

ESDが開発されるまでは、EMR(内視鏡的粘膜切除術:endoscopic mucosal resection)という治療法が主流でした。

EMRはスネア(金属製の輪)でがんを切除していましたが、切除できるサイズに限界があり、がんの取り残しが出たりして再発することが問題でした。

ESDは理論上、切除出来る大きさに限界はなく、正確に切除出来るため、EMRの弱点を克服した治療法と言えるでしょう。

ESDが開発されたことで、昔はおなかを切らなければ治せなかったような大きながんも、胃カメラや大腸カメラの先端から出した電気メスで切除することで、おなかを切らなくてもすむようになって来ています。

ESDの適応について

ESDの適応の原則は、「リンパ節転移の可能性がほとんどない初期のがん」であることです。

食道・胃・十二指腸・大腸がんの治療法の選択の概要をお示しします。

まず、CTなどの検査でがんが転移していることが分かっている場合は、ESDの対象外となります。

ESDは消化管の内腔からの治療法であり、消化管の壁の外にある転移巣は切除することが出来ないからです。

 

次に、内視鏡(胃カメラまたは大腸カメラ)で早期がん、進行がんのどちらであるかを診断します。

 

早期がんなのか、進行がんなのかはがんの根の深さで決まります。

 

消化管の壁を横から見た図を提示します(食道は漿膜がないなど多少の違いはありますが、似たような構造をしています)。

胃、大腸では粘膜下層までのがんを「早期がん」、筋層まで到達したものを「進行がん」と定義しています(食道では粘膜内までのがんが「早期がん」です)。

筋層まで浸潤したがんはESDの適応外になります。なぜなら、筋層は粘膜下層のさらに下にあり、ESDで切除出来る範囲を超えているからです。

早期がんの中で、さらに“一定の基準”を満たしたものがESDの適応になります。

この一定の基準は、学会のガイドラインで細かく定められています。

ESDの適応内でがんを発見することが重要と言えます。

しかし、一般的に早期がんは自覚症状が出にくく、自覚症状が出た場合は既に進行がんになっているケースが多いです。

そのため、自覚症状がなくても定期的に胃カメラ、大腸カメラを受けることをお勧めします。

ESDの利点

ESDの利点は何といっても患者様への体への負担が少ないことです。

外科手術では臓器の一部あるいは全てを切除するため、手術後に後遺症が起こることがあります。

ESDでは臓器が全て温存されるため、ごく一部の例外を除いて後遺症が起こることはなく、ESDを行う前と同じ状態に戻ることが出来ます。

また、一般的に外科手術に比べ入院期間が短くてすみます。

湘南藤沢徳洲会病院・内視鏡内科では食道、胃、大腸のESDの入院期間は4泊5日です(全国的な平均より短期間で退院可能です)。十二指腸のESDは1週間程度です。

ご高齢の方などは入院期間を延ばすこともありますが、ほとんどの方が予定通りに退院されています。