Digestive Endoscopy
(日本消化器内視鏡学会の英文誌)

浸水下での内視鏡的粘膜下層剥離術(underwater ESD)用のフードを、Digestive Endoscopy (Impact Factor: 7.559)から報告しました。

タイトル:Tapered hood with wide holes in its sides for efficient air bubble removal during underwater endoscopic submucosal dissection
掲載誌:Digestive Endoscopy 2022; 34: 654
形式:Letters, Techniques and Images
著者:Mitsuru Nagata (永田充)
DOI: https://doi.org/10.1111/den.14232

Digestive Endoscopyは、日本消化器内視鏡学会の英文誌のため、学会会員は以下のボタンから無料で論文にアクセス出来ます。それ以外の方は、以下のボタンのリンク先で所定の手続きを行えば閲覧できます。

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Underwater ESDとは

今回は、浸水下での内視鏡的粘膜下層剥離術(underwater ESD)に適した先端先細り状のフードと呼ばれる処置具(特許出願中)のコンセプトを発表するために論文を作成しました。

以下、少しだけ今回の発表をした背景について述べます。詳細については、リンク先の記事などをご覧下さい。

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は、食道・胃・十二指腸・大腸の早期がんなどを、胃カメラ・大腸カメラを利用して切除する方法です。

ESDは2000年ころに日本で開発された治療法ですが、この方法により、おなかや胸などを切らなくても、食道がん、胃がん、十二指腸がん、大腸がんを切除できるようになりました。

ESDは元々、気体で拡張された腸管の中で行われてきましたが、最近、液体で腸管を拡張させて行う underwater ESD という方法が開発されました。

左:ガスで膨らませた腸管内で行われる通常のESD。右:液体で拡張させた腸管内で行うunderwater ESD。イラストはGastrointestinal Endoscopy 2018; 87: 1345–53から引用。

私は2018年に、Gastrointestinal Endoscopy (GIE)という米国消化器内視鏡学会の学術誌から、underwater ESDの有用性を報告しました。

Underwater ESD の利点として、以下のようなものがあります。

Underwater ESD の利点

・光の反射を抑えることで視野が良くなる

・浮力や水圧を利用することにより術野の展開が得られる

・吸熱効果による組織損傷の軽減

内視鏡先端に装着する“フード”の側面の穴の意義

ESDは送気下、浸水下のどちらで行うにしても、内視鏡の先端にフードと呼ばれる処置具を装着します。

このフードを装着することで、対象物とレンズの間に適切な距離を保ち、視野を確保することが出来ます。

カメラ(内視鏡)の先端から電気メスを出して、がんの下の組織を剥がそうとしているところ。カメラの先端には、図で示すようにフード(これは先端が真っすぐなタイプ)が装着されており、カメラの先端にあるレンズと対象物の間に適切な距離を保つことが出来ます。

通常のESDは気体中で行われるため、フードの中に液体が溜まると、内視鏡先端に付いているレンズに付着し、視野が悪くなります。そのため、フードの側面には基本的に小さな穴(排水口)があり、毛細管現象を利用して、液体をフードの外に出しやすい構造になっています。

市販の先端先細り状フード(STフードショートタイプ; 富士フィルム)。側面には細いスリット状の排水口が2か所あります。写真は Digestive Endoscopy 2022; 34: 654 から引用。

毛細管現象を利用して穴から排水するためには、穴は狭い方が良いとされています。

このことを踏まえると、気体中でESDを行うのであれば、排水できた方がクリアな視野を保ちやすいため、フード側面の穴は狭い方が良いでしょう。

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Underwater ESD の問題点:気泡による視野障害

一方、浸水下でESDを行う場合、レンズの周辺は水で満たされていた方が良いため、フード側面の穴を排水目的で使用する必要はありません。

浸水下では、気泡が視野に入ると、その部分が見えにくくなり、問題となります。

そのため、Underwater ESD では、レンズの周辺に溜まった気泡を排出して、クリアな視野を保てるような構造のフードが望ましいと考えられます。

市販の先端先細り状フード(STフードショートタイプ; 富士フィルム) を使用してunderwater ESDを行っているところ。画面の左側にあるのが気泡です。気泡が邪魔で、画面の左側は見えにくくなっています。写真は Digestive Endoscopy 2022; 34: 654 から引用。

Underwater ESDに適した気泡排出口を備えた先端先細り状フードの構造

ところで、underwater ESD は、先端が先細り状のフードを内視鏡先端に付けて行われることが多いのですが、この先端先細り状フードを装着していると、先端の開口部が狭いため、真っすぐなフードに比べ、気泡をフードの外に出しにくくなります。

市販の先端先細り状フード(STフードショートタイプ; 富士フィルム) を使用してunderwater ESDを行っている様子。フードの先端が先細り状のため、真っすぐな通常のフードと比べ、先端からは気泡が抜けにくくなります。また、フード側面には2つの穴がありますが、狭いため、フード内に溜まった気泡を排出しにくい場合があります。イラストは Digestive Endoscopy 2022; 34: 654 から引用。

そのため、今回の発明では、市販の先端先細り状フード(STフード ショートタイプ; 富士フィルム)の側面に4つの大きな穴(気泡排出口)を設けることで、気泡を外に出しやすくなるようにしました。

市販の先端先細り状フード(STフードショートタイプ; 富士フィルム) の側面に、ルーターと呼ばれる市販の工具を使用し、4つの大きな穴を作成しました。写真は Digestive Endoscopy 2022; 34: 654 から引用。

側面の穴は、ルーターと呼ばれる工具を使用することで自作しています。

以下に使用したルーター(RTD35ACL; TACKLIFE)のリンクを貼っておきます。

気泡排出口は広く、数が多い方が、気泡の排出効率は上がると考えられます。

気泡排出口を備えた先細り状フードでunderwater ESDを行っているところ。フードの側面に大きな穴(気泡排出口)が4つあるため、気泡がフードの外へ抜けやすくなり、クリアな視野の維持をサポートします。イラストは Digestive Endoscopy 2022; 34: 654 から引用。

一方、気泡排出口を広げ過ぎると、フードの強度が低下して耐久性に問題が生じる可能性があることや、外から組織片などが入ってきてレンズに付着し視野が悪くなる可能性があるため、広すぎない方が良いです。

気泡排出口の大きさは、現時点では、15 mm2~25mm2 程度が適切と考えています。

現在、このフードに関する特定臨床研究を行っており、将来的には学会や論文などで発表出来ればと考えています。

まとめ

Underwater ESD などの浸水下での内視鏡治療は、近年、有用性を示す報告が相次いでおり、内視鏡治療の幅を広げるための有力なオプションと考えています。

しかし、現状では、浸水下で用いることを前提とした内視鏡処置具はほとんどないため、今後、開発が望まれます。

今回発表したunderwater ESD用フードの側面の穴の構造は、今までの常識 ”フード側面の穴は排水口であり、毛細管現象を利用できる程度に狭く設定する”とは逆の発想になります。

浸水下と送気下では、環境が全く異なるため、内視鏡処置具に求められる構造も異なるはずです。

今後も研究を重ね、患者様にとって役に立つ報告が出来るように精進して参ります。

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