ピロリ菌のことをご存じでしょうか。
最近は、テレビの健康番組などでピロリ菌が取り上げられることが多く、一般の方にも知られてきているように思います。
ピロリ菌は感染しているだけでは症状が乏しいため、自分がピロリ菌に感染していることに気付きにくいです。しかし、感染した状態が続くと胃がんなどの病気の原因となります。
幸い、薬(胃薬と2種類の抗生物質)を1週間飲むことで、多くの場合、ピロリ菌の感染を治すことが出来ます。
ピロリ菌の感染を治すことで胃がんなどの病気のリスクを抑えることが出来ます。
ピロリ菌とは
ピロリ菌は、正式には「ヘリコバクター・ピロリ」と呼ばれる細菌です。
この記事では、分かりやすくするために、“ピロリ菌“で統一します。
ピロリ菌はウレアーゼという酵素により胃酸を中和することが出来るため、強い酸性環境の胃の中に住み着くことが出来ます。
ピロリ菌が胃の中に住み着くことで、胃炎になり、さらには胃がんなどの病気を引き起こします。
ピロリ菌の感染経路
ピロリ菌は免疫が発達していない幼児期に、飲み物や食べ物を介して口からピロリ菌が入り込むことで、感染(経口感染)することが多いと考えられています。
ピロリ菌を持っている親から幼児への口移しなどが、ピロリ菌感染の原因になる可能性があります。
自分がピロリ菌に感染しているかどうか調べたことがない方は多いと思いますが、その場合は、口移しで子供にご飯を食べさせるのは控えた方が良いでしょう。
なお、成人の場合は免疫が発達しているため、新たにピロリ菌が感染する可能性は低いとされています。
年齢が高いほど、ピロリ菌感染率が高い
日本では、年齢が高いほどピロリ菌に感染している人が多いです。
2010年における年齢階級別のピロリ菌感染率(推定感染率)を表すグラフをお示しします。
20歳代ではピロリ菌に感染している方は10%以下ですが、60歳代以上では50%以上の方がピロリ菌に感染していると推定されています(2010年の時点で)。
なぜ、年齢が高い方ほどピロリ菌に感染している割合が高いのでしょうか。これは、年齢が高い人ほど、井戸水を利用するなど衛生環境が整っていない中で、免疫が発達していない幼児期を過ごしたためにピロリ菌に感染しやすかったことが原因と考えられています。
現代では、衛生環境が整っているため、幼児期における環境中からのピロリ菌感染や、保育園・幼稚園などでのピロリ菌感染の可能性は低くなっています。
現代での幼少期におけるピロリ菌感染の原因の多くは、家庭内での感染であると推測されています。
ピロリ菌の感染は胃がんの原因になります
胃がんの約99%はピロリ菌の感染が原因と言われています。
Helicobacter. 2011; 16(6): 415-9
ピロリ菌に感染したことが一度もない患者様にも、胃がんが発生しないわけではありませんが、非常に珍しいことです。
ピロリ菌に一度も感染したことがない患者様に発生した胃がんを、”ピロリ菌未感染胃がん”と言います(“未感染”とは感染したことが一度もないという意味です)。
ピロリ菌未感染胃がんは、ピロリ菌感染によって発生する胃がんと比べ、年齢がやや低く、”印環細胞がん”という悪性度の高い組織型や、”胃底腺型胃がん”という珍しいタイプの組織型が多いのが特徴です。
・胃がんリスク検診(ABC検診)マニュアル
・Am J Surg Pathol. 2010; 34(5): 609-19
なお、この後で述べるピロリ菌の除菌により胃がんになるリスクは下がりますが、未感染(感染したことが一度もない)の場合と違い、胃がんになるリスクが全くなくなるわけではないことに注意が必要です。
ピロリ菌除菌後に発生する胃がんは、”除菌後発見胃がん”と呼ばれます。
ピロリ菌の治療(除菌)
ピロリ菌の感染は、薬(胃薬と2種類の抗生物質)を1週間飲めば治せることが多いです。
ピロリ菌の感染を治すことを、“ピロリ菌除菌”や”ピロリ菌除菌療法”、あるいは単に“除菌”などと言います。
ピロリ菌を除菌することで、胃癌のリスクが低下することが示唆されています。
胃癌の内視鏡治療後(ESDなど)にピロリ菌除菌を行うことで、新しく胃癌が発生するリスクが約1/3に低下した。
Lancet. 2008; 372(9636): 392-7
除菌の際は、薬を飲み忘れないことが重要です。
飲み忘れたり、途中でやめたりすると除菌が失敗するだけではなく、薬に耐性が出来てしまい薬が効きにくくなります。
ピロリ菌の感染を調べるためには
ピロリ菌感染を調べる方法は、
- 胃カメラを使わないで調べる方法:尿素呼気試験、血液検査、検尿、検便
- 胃カメラを使って調べる方法
に分けられます。
胃カメラを使わないで調べる方法
・尿素呼気試験
薬を内服した後に吐き出した息を集めることで、ピロリ菌がいるかいないかを調べることが出来ます。信頼性が高い検査で、ピロリ菌の除菌治療を行った後、ピロリ菌が消えたかどうかを調べるために行われることが多いです。
・血液検査、検尿、検便
ピロリ菌に感染すると、血液や尿の中に抗体が検出されるようになります。また、便の中にはピロリ菌の抗原が検出されます。抗体や抗原を検出することで、ピロリ菌に感染しているかどうかを調べることが出来ます。便はすぐに採取することが出来ないため、血液検査、検尿で調べることが多いです。
胃カメラを使って調べる検査
胃カメラを利用して、直接、胃の粘膜を採取して調べます。培養法、鏡検法、迅速ウレアーゼ試験といった方法があります。
採取した胃粘膜にピロリ菌感染を裏付ける所見がなければ、ピロリ菌感染があってもピロリ菌感染がないと判定される場合があり、上記の尿素呼気試験などに比べ信頼性は低くなります。
保険診療の範囲でピロリ菌の検査をするためには、以下に該当することが必要です。
- 胃炎
- 胃潰瘍、十二指腸潰瘍
- 早期胃がんに対する内視鏡治療後
- 胃MALTリンパ腫
- 特発性血小板減少性紫斑病
上記に当てはまらない場合は自費診療になります。最近では、人間ドックなどで比較的、安価で調べられるようにしている病院やクリニックもあるため、お問い合わせ下さい。
まとめ
・ピロリ菌の感染は胃がんなどの原因になる
・中高年の方はピロリ菌に感染している可能性が高い
・薬を1週間飲むことで、ピロリ菌の感染を治すことができる
・ピロリ菌除菌により胃がんになるリスクが下がる
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