2019年7月14日(日曜)、ベルサール半蔵門(東京)で開催された”第19回EMR/ESD研究会”に参加して来ました。
年1回開催されており、今回で第19回目の歴史ある全国規模の研究会です。
第19回EMR/ESD研究会の概要
今回は「これからのEMR/ESD 手技の標準化、偶発症対策、若手医師への伝授」がテーマとされており、大きく分けて以下の3つのセッションに分かれていました。
- 咽頭・食道における内視鏡治療
- 胃、十二指腸における内視鏡治療
- 大腸における内視鏡治療
内視鏡治療とは、胃カメラや大腸カメラを用いた治療のことです。
私は、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)という治療を専門としております。
ESDは、胃カメラや大腸カメラから出した電気メスで、食道・胃・十二指腸・大腸の癌(がん)、腺腫、ポリープなどを切除する治療法で、内視鏡治療の中の一つになります。
ESDは2000年ころに開発された新しい治療法で、昔であれば、おなかを切らないと治せなかった癌も、ESDによりおなかを切らなくても切除出来るようになりました。
私は、ESDに関して何個か研究テーマを持っているのですが、演題の応募期間に
・胃腫瘍(胃癌、胃腺腫など)のESD
・十二指腸腫瘍(十二指腸癌、十二指腸腺腫など)のESD
の研究がある程度まとまったため、2演題応募しました。
幸いどちらも採用していただき、今回は胃・十二指腸のセッションで2つの演題を発表しました。
同じ日に2回発表があるため、準備は大変でしたが、全国規模の学会で発表させていただける機会は貴重です。
自宅で最後のプレゼンの予行演習をし、出発です。
会場は結構広いのですが、到着時にはすでにほぼ満員でした。
今回の発表内容
十二指腸腫瘍に対するUnderwater ESD
1つ目の発表は、十二指腸腫瘍のESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を浸水下で行う、Underwater ESDの発表です。
十二指腸ESDは食道、胃、大腸のESDに比較し、穿孔(せんこう:消化管壁に穴があくこと)が起こりやすく、ESDの中では、一番難易度が高いとされています。
従来のESDは、送気して十二指腸を膨らませて行われてきました。
Underwater ESDは、浸水下でESDを行う新しいESDの方法です。
私は2018年に、大腸腫瘍のUnderwater ESD、十二指腸腫瘍のUnderwater ESDに関する英語論文を発表しております。
- Usefulness of underwater endoscopic submucosal dissection in saline with a monopolar knife for colorectal tumors. Gastrointestinal Endoscopy (GIE) 2018; 87(5): 1345-1353
- Underwater endoscopic submucosal dissection in saline solution using a bent-type knife for duodenal tumor. VideoGIE 2018; 3(12): 375-377
今回は論文で発表してきた内容に、新しい気付きなども加え、Underwater ESDで得られるメリット、デメリットについて動画などを提示し、説明して来ました。
まだ、Underwater ESDの報告例は多くはありませんが、十二指腸腫瘍の内視鏡治療においては特に有用と考えています。
胃腫瘍に対するS-Oクリップを用いたESD
2つ目は、トラクション法に関する発表です。
トラクション (traction)は「牽引(引っぱること)」という意味です。
ESDは、冒頭でご説明したように、胃カメラや大腸カメラの先から出した電気メスで、消化管のがんなどの病変を切除する治療法です。
消化管の中に手を入れることは出来ないため、外科手術と違い、左手で病変を固定して右手で切るといった動作が出来ません。
左手を使わず、右手だけで病変を切るというイメージになります。
そのため、病変に有効な力が伝わりにくい場合があります。
なかなか、イメージしにくいかもしれません。
この写真のように、テープをはさみで切る動作をご想像下さい。
写真では、左手でテープをおさえて、右手ではさみを持って切っていますね。左手でテープに丁度良い力を加えることで、はさみで切る動作が簡単になります。
この際、もし、左手を使わずにテープを切るとなると、かなり切りにくくなるのは容易に想像していただけるのではないかと思います。
ESDでは、普通に行うとこのようなやりにくさが生じてしまいます。
トラクション法は、左手に相当するものを、機材でカバーするという方法です。
S-Oクリップという機材を使うと、思った方向に牽引をかけることが出来ます。
胃では、胃カメラを反転させた際に、S-Oクリップのバネと胃カメラが引っかかったりして、うまく使えないという懸念もあります。
しかし、S-Oクリップの取り付け方を工夫することで、胃カメラを反転させた際も、問題なく使えます。
私は、S-Oクリップの取り付け方の工夫について、VideoGIEという学術誌から
Modified attachment method using an S–O clip for gastric endoscopic submucosal dissection
という題名で、英文で報告しています。
フリーでアクセスできるようになっているため、よろしければ、ご覧ください。
論文に添付してある動画は、You Tubeからもアクセス出来ます。
今回の第19回EMR/ESD研究会での発表では、VideoGIEの動画に細かい点も追加して提示させていただきました。
今後の展望
学会で発表すると、色々と勉強になりますね。
例えば、基本的なことかもしれませんが、以下のようなメリットがあります。
- 発表の準備の過程で、自分の考えがまとまる
- 質疑応答において、客観的な視点で意見を聞くことが出来る
今回は特に、会場の先生方からいただいた質問で、新しい課題が見つかりました。
現在、胃ESDにおいて、S-Oクリップを使用する方法と使用しない方法を比較する論文を投稿中です。
今回いただいた質問への回答も、論文中にまとめることが出来れば、意義のある論文に仕上げることが出来そうです。
また、Underwater ESDに関する研究も引き続き、継続して行きたいと思います。
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