日本人は胃がんで亡くなる方が多かったのですが、最近は大腸がんで亡くなる方が目立つようになってきています。
以下の表をご覧下さい。
死亡数が多いがんの順位(2018年)
1位 | 2位 | 3位 | |
男性 | 肺がん | 胃がん | 大腸がん |
女性 | 大腸がん | 肺がん | 膵臓がん |
国立がん研究センターから公開されているデータ(2018年)では、男性、女性とも大腸がんによる死亡数はトップ3に入っています。
特に、女性では第1位になっています。
一方で、大腸がんは進行が比較的遅く、他の臓器に転移しても切除出来る可能性があるといった特徴があります。そのため、大腸がんは早い段階で発見されれば、比較的、治る可能性が高いがんと言えます。
重要なことは、大腸がんを早い段階で発見することです。
そのためには、大腸がんによる初期症状を知っておく必要がありますね。また、どのような検査をすれば早く発見出来るのかを知っておく必要もあります。
ただ、大腸がんと一口に言っても、発症したばかりの早期大腸がんと、発症してから時間が経過して病態が進んでしまった進行大腸がんでは見た目、症状、治療法など全てが違ってきます。
私は普段から、大腸がんなどの胃腸のがんの内視鏡診断・治療を行っています。
その立場から、大腸がんに関する統計、早期がんと進行がんの違い、初期症状、早期発見のために必要な検査などについてまとめました。
大腸がんは40歳ころから増えていきます
年齢が高くなるほど大腸がんになりやすくなります。
下のグラフは、大腸がんがどれくらいの頻度で発症するかを年齢階級別に表したものです。
青が男性、オレンジが女性のグラフです。
男女とも、40歳くらいから徐々に大腸がんが増え始めるのがお分かりかと思います。
大腸がんは、大腸腺腫(せんしゅ)という良性ポリープが徐々にがんに変化して発症することが多いと言われています。
大腸腺腫のうちに切除してしまうことで、大腸がんの発症を抑えることが出来ます。
大腸腺腫はほとんどの場合、ポリペクトミー、EMR(内視鏡的粘膜切除術)、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)などの大腸カメラを用いた治療法で、おなかを切らなくても切除することが出来ます。
40歳を過ぎたら大腸カメラを検討されることをお勧めします。
大腸がんは進行具合によって早期大腸がん、進行大腸がんに分類されます
下の図は、大腸の壁構造と、大腸がんの根の深さの関係を表したものです(分かりやすくするため、壁の構造は簡略化してあります)。
大腸がんは、壁の一番内側にある”粘膜”に発生します。
成長すると徐々に根が深くなり、大腸の壁の中を外側に向かって進んでいきます。
根の深さが粘膜下層までのものを早期大腸がん、筋層まで到達したものを進行大腸がんと呼びます。
早期大腸がんでは、他の臓器やリンパ節への転移のリスクが低いのに比べ、進行大腸がんでは転移のリスクが高くなります。
また、転移のリスクは大腸がんの根が深くなればなるほど高くなっていきます。
大腸の壁をがんが突き破ると、がん細胞が大腸の外に漏れて広がっていきます。これを”播種(はしゅ)”と呼びます。
早期大腸がんの状態にとどまっている期間に切除出来れば、転移が起きてしまう前に治せる可能性が高くなります。
大腸がんの初期症状
早期大腸がんの間は自覚症状がほとんどありません。
自覚症状がないため、知らない間にがんが大きくなったり、がんの根が深くなったりして病態が進行していきます。
進行した大腸がんの状態になると、血便などの症状が出てきます。主な症状について、ご説明します。
血便
血便には、似た言葉として下血があります。まず、血便、下血という言葉の意味を確認しましょう。
以下は、医学書に書かれている説明です。
下血と血便の使い分けは、主として上部消化管由来の出血で認められる粘稠な黒い便を下血とし、下部消化管由来の出血に認められる血液の混じった赤い便を血便とされるが、わが国では血便あるいは下血をお互いの総称として用いられることも少なくない。
消化器病診療(第2版)日本消化器病学会監修 医学書院
専門用語が多く、患者様にとって、少し分かりにくいかもしれません。
血便、下血は混同されることも多いのですが、この記事では、以下の意味で血便という言葉を用います。
血便=真っ赤な血液が付いた便、あるいは真っ赤な血のみが肛門から出ること
進行した大腸がんは、わずかな刺激で出血しやすい状態になります。
例えば、大腸カメラの先端が大腸がんに少し触れただけでも、ジワーッとにじみ出るような出血を起こします。出血は自然に止まることが多いですが、何らかの刺激で再び出血を起こします。
このように、進行した大腸がんは、にじみ出るような出血を繰り返し、血便の原因になります。
患者様にとって、血便で思い浮かべられるのは痔のことが多いようですが、進行した大腸がんでも血便が起こるため、血便が続く場合は注意が必要です。
大腸がんを早期に発見するためには大腸カメラを受けられるのが一番です。
血便が続く場合は、医師に相談し、大腸カメラを検討された方が良いでしょう。
貧血、ふらつき、体のだるさ
血便が続くと、少しずつ体の中から血液が失われ、鉄分不足による貧血を起こします。貧血によって、ふらつき、疲れやすい、体のだるさなどの症状が現れてきます。
ただし、時間をかけて少しずつ貧血が進行していくため、体が貧血の状態に慣れており、ひどい貧血の状態になっていても、ふらつきや体のだるさなどの自覚症状が出ない場合もあります。
健康診断など血液検査で、貧血があった場合、大腸がんなどの胃腸のがんが隠れている場合があります。このような場合、貧血の原因を調べるための検査が必要になります。放置せず、医療機関を受診されることをお勧めいたします。
便秘、便が細くなる、腹痛、おなかの張り、下痢
大腸がんが大きくなると、腸の中のスペースが狭くなります。
そのため、便が通りにくくなり、便秘、便が細くなる、腹痛、おなかの張りなどの症状が現れます。
狭いところを通過した便が小出しになり、下痢のような症状を起こすこともあります。
最終的には、がんが大腸の中をふさいでしまい、腸閉塞(ちょうへいそく)の状態になってしまいます。
腸閉塞になると、腸の中のガスや便が排出されなくなってしまうため、おなかがパンパンになります。多くの場合は同時に、おなかの激痛、嘔吐などの症状が起こります。
大腸がんは、初期には症状があまり出ないため、腸閉塞の状態になって初めて病院を受診される患者様もいらっしゃいます。
定期的に便潜血反応、大腸カメラなどの検査を受け、早期発見することが重要になります。
大腸がんを早期発見するために必要な検査
大腸がんの早期発見の効果が実証されている検査としては、便潜血反応、大腸カメラがあります。
便潜血反応
大腸がん検診などで行われる検査で、便の中に含まれる血液の有無を調べます。
便を採取するだけなので、簡単に出来ます。
便潜血反応が陽性になった場合、約3%に大腸がんが発見されます。便潜血反応が陽性の場合は大腸カメラでの精密検査が必要です。
大腸がんがあっても、必ずしも便潜血反応が陽性になるわけではないことに注意が必要です。詳しくは下記の記事をご覧ください。
大腸カメラ
大腸(直腸~盲腸)を内視鏡で観察して、異常の有無を調べる検査です。便潜血陽性の場合、一般的には、精密検査として大腸カメラが行われます。
大腸がん、大腸ポリープの診断の精度が高い検査法です。生検(組織を採取して悪性の有無を確認すること)や、大腸ポリープを切除することが出来ます。
以下の記事もご参照下さい。
まとめ
・大腸がんは、男女とも40歳以上になると増えてくる。
・早期大腸がんは自覚症状がほとんどない。
・進行大腸がんになって、血便などの症状が出てくる。
・早期発見のために、便潜血反応、大腸カメラを定期的に受けることが必要。
以下は、患者様向けの大腸がんに関する書籍です。
大腸がんの治療法について分かりやすく書かれています。
大腸がんの治療指針(ガイドライン)が、患者様向けに分かりやすく書かれています。
大腸がんに関する情報を、下記の記事でまとめています。
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