ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)では、送気下と生理食塩水内で、同じナイフ、同じ高周波設定を使用していても、組織に対する作用が異なることがあります。

特にUnderwater ESD(浸水下ESD:UESD)を始めた際、送気下では問題なく切れていたナイフが、生理食塩水内では切れにくくなるという現象を経験した先生もいるのではないでしょうか。

筆者も2015年頃にUESDを始めた際、この現象を経験しました[1]。

しかし、近年の研究によって、生理食塩水内では切開作用が弱まる一方、凝固作用が強くなる場合があることが明らかになってきました。

今回は、その理由と臨床への応用について解説します。

▶ESDの基本についての詳しい解説記事

▶Underwater ESD(浸水下ESD)の詳しい解説記事

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生理食塩水内では高周波の作用が変わる

送気下で行う従来型ESD(CESD)では、ナイフから流れる高周波電流は、主に接触している組織を通って対極板へ戻ります。

一方、UESDでは、ナイフの周囲が電気を通しやすい生理食塩水で満たされています。そのため、電流は組織だけでなく、周囲の生理食塩水にも流れることができます。

2025年、Capogrecoらは、送気下と生理食塩水内における高周波電流の違いを実験的に検討し、Scientific Reports誌に報告しました[2]。

その結果、生理食塩水内では、

  • インピーダンス(電流の流れにくさ):約99%低下
  • ピーク電圧(瞬間的な最大電圧):52〜78%低下
  • 出力:237〜2030%増加

という大きな変化が認められました。

つまり、同じナイフ、同じ高周波設定でも、周囲の環境が変わるだけで電気的な特性が大きく変化するのです。

生理食塩水内では切開より凝固が優位になることがある

高周波による組織の切開には、電極周囲での急速な加熱や放電が関与します。

一方、凝固は、組織が加熱されてタンパク質が変性することで生じます。

生理食塩水内では、ピーク電圧が低下することで放電を伴う切開作用が弱まり、組織の加熱による凝固作用が相対的に優位になる可能性があります。

実際、Capogrecoらの研究では、生理食塩水内で凝固範囲(lateral thermal width)が拡大することが示されました[2]。

例えば、forcedCOAGでは、凝固範囲が送気下の0.36mmから生理食塩水内の1.06mmへと拡大しました。

一方、preciseSECTでは有意な変化は認められず、凝固作用の変化は高周波モードによって異なることも分かりました。したがって、生理食塩水内では必ず凝固作用が強くなるわけではありません。

また、凝固範囲の拡大は周囲組織への熱損傷につながる可能性もあるため、注意が必要です。

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生理食塩水内での血管凝固は出血を減らせるか?

この凝固作用の変化は、実際の血管処理にも応用できるのでしょうか。

2026年、Capogrecoらは、生理食塩水内での血管切離前の予防的凝固(vessel pre-sealing)を検討したランダム化比較試験(RCT)をEndoscopy誌に報告しました[3]。

ESDまたはPOEMを受けた70人を対象とした研究では、術中出血に対して追加止血が必要となった患者の割合は、

  • 生理食塩水群:32.4%
  • CO₂群:75.8%

と、生理食塩水群で有意に低下しました。

この結果は、生理食塩水内での凝固作用の変化を、血管切離前のpre-sealingに利用できる可能性を示しています。

ただし、この研究はUESDとCESDの手技全体を比較したものではなく、血管の凝固処理を行う環境を比較した研究です。

また、実際の凝固作用には、ナイフ先端の形状、高周波設定、ナイフ周囲の水流なども関係すると考えられています[4-6]。

まとめ

生理食塩水内では、周囲の電気的環境が変化することで、切開・凝固作用も変わります。

この変化は、ナイフの切れ味が低下する原因になる一方、血管凝固では有利に働く可能性があります。

UESDでは、こうした高周波の特性を理解し、目的に応じて活用することが重要だと考えています。

さらに詳しく知りたい方へ

本記事では、生理食塩水内における高周波の作用について、研究結果を中心に要点を紹介しました。

noteでは、インピーダンス・電圧・出力の関係、基礎研究の詳細、血管凝固に関するRCTの結果とその限界について、さらに詳しく解説しています。

▶ noteで詳しい解説を読む【第1回・原理編】

次回は、ナイフ先端の形状による違いに注目し、細径ナイフと太径ナイフの切開・凝固作用について解説します。

参考文献

1. Nagata M. Usefulness of underwater endoscopic submucosal dissection in saline solution with a monopolar knife for colorectal tumors (with videos). Gastrointest Endosc 2018; 87: 1345-1353.

2. Capogreco A, Maselli R, Enderle M et al. Different behavior of electrosurgical currents between air and saline immersion therapeutic endoscopy. Sci Rep 2025; 15: 4388. doi:10.1038/s41598-024-83503-3

3. Capogreco A, Maselli R, Massimi D et al. Vessel coagulation in third-space endoscopy: a randomized controlled trial. Endoscopy 2026; 58: 608-615. doi:10.1055/a-2780-5445

4. Capogreco A, Maselli R, Legros R et al. Flushing ensures vessel presealing in underwater third-space endoscopy. Endoscopy 2025; 57: E213-E214. doi:10.1055/a-2528-6414

5. Nagata M. Comment on: Flushing ensures vessel presealing in underwater third-space endoscopy. Endoscopy 2025; 57: 818. doi:10.1055/a-2556-5074

6. Nagata M. Technical determinants of successful saline-immersion vessel pre-sealing: beyond immersion alone. Endoscopy 2026; 58: 932-932. doi:10.1055/a-2863-9496

関連サイト

▶ 永田充 医師のアメブロはこちら
ピロリ菌、食道がん・胃がん・大腸がん、内視鏡検査(胃カメラ・大腸カメラ)などについて、患者さん向けに分かりやすく解説しています。

▶ 専門家向けの解説(note)はこちら
Underwater ESDなど、より専門的な内容をまとめています。

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