胃カメラは食道、胃、十二指腸を見る検査ですが、実は“のど”も見ることが出来ます。

ただ、“のど”を胃カメラで見ようとすると、反射を誘発してオエオエなってしまい、患者様にとっては大変苦しい検査となってしまいます。

また、のどは基本的に耳鼻咽喉科の領域です。

そのため、昔は胃カメラで、のどの病気を診断・治療する機会はあまりありませんでした。

しかし、最近では胃カメラで、のどを観察するのは常識になりつつあります。

また、麻酔(鎮静剤)の使用、鼻から入れる胃カメラ(経鼻内視鏡)の使用により、患者様の苦痛を軽減し、のども観察しやすくなったこともあり、のどの癌(がん)も胃カメラにより初期の状態で発見される機会が増えてきています。

ここでは、のどの癌の一つである“咽頭(いんとう)癌”になりやすい患者様の特徴、咽頭癌の内視鏡診断、内視鏡治療などについてご説明します。

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のどの構造

のどの構造(分かりやすくするため、簡略化してあります)

のどは、咽頭(いんとう)、喉頭(こうとう)に分けられます。

咽頭:空気、食べ物が通る部分。上・中・下の3領域に分けられます。下咽頭から、食道、胃、十二指腸へ続きます。

喉頭:咽頭と気管をつなぐ部分。のどぼとけの位置をイメージしていただくと分かりやすいと思います。

のどの観察:経鼻内視鏡(鼻から入れる胃カメラ)なら苦しくない!

のど(咽頭、喉頭)は食道の手前にあるため、胃カメラを入れていく際に観察することができます。

最近は、胃カメラの際、のどの病気を診断する機会が増えて来ています。

ただし、胃カメラを口から入れると、胃カメラがオエッとなる反射を誘発する部位に触れやすく、患者様にとっては大変苦しいため、時間をかけて、のどを観察するのは難しいです。

一方、鼻から入れる胃カメラ(経鼻内視鏡)では、オエッとなりにくく、時間をかけて詳細にのどを観察しやすくなります。

口から入れる胃カメラ、鼻から入れる胃カメラ(経鼻内視鏡)の比較

ただし、鼻から入れる胃カメラは画質がやや落ちるなどの欠点もあるため、目的によって口から入れる胃カメラと使い分けることが重要です。

私は、のどの癌のリスクが高いと判断した患者様は、鼻から入れる胃カメラを使用し、時間をかけて、のどを詳細に観察するようにしています。

鼻から入れる胃カメラを使用すれば、時間をかけて観察しても、患者様も我慢できる場合が多いです。

のどの癌は、早期発見が難しいことが多く、発見されたときには病態が進行していることが稀ではありません。

しかし、のどの癌を胃カメラで初期の状態で発見出来れば、完治が望める可能性が高くなるだけではなく、体への負担が軽い内視鏡治療で治せる可能性も出てきます。

特に、咽頭癌の一部は、胃カメラを使った方法で切除することが出来るようになってきており、私も治療を行っております。この治療の内容については、次の項でご説明します。

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胃カメラを利用した咽頭癌の治療

近年、のどを胃カメラで観察するのが当たり前になってきており、それとともに、のどの癌が胃カメラで見つかる機会が増えて来ています。

のどの癌(咽頭癌、喉頭癌)の治療は、基本的に耳鼻咽喉科の領域です。

ただ、咽頭癌に関しては、胃カメラを利用した治療が可能になったこともあり、消化器内科などの胃カメラを行う医師が治療にかかわる機会が増えて来ています。

のどの癌の治療というと、治療後に声を失うなど、負担の大きい治療をイメージされるかもしれません。

しかし、咽頭癌の一部は、内視鏡の技術や機器の進歩により、胃カメラを使った体に負担の少ない方法で切除できるようになってきています。

胃カメラを利用した咽頭癌の治療には色々な方法がありますが、私は内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で咽頭癌の治療を行っています。

ESDでは発声機能を残すことが可能であり、患者様にとっては負担の少ない治療です。

咽頭癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

①黄色い矢印の位置が少し赤くなっています。この赤い部分が咽頭癌です。
②ヨードと呼ばれる薬液で染色すると、白い矢印内に咽頭癌(周りと色の違う領域)が浮かび上がってきます。
③咽頭癌を取り囲むように、電気メスで白いマークを付けました。
④病変の下に生理食塩水を注射して浮かせた後、電気メスでマークの外側を切開します。
⑤病変の下の組織を電気メスで剥がしていきます。
⑥病変の切除を完了しました。白い矢印の内側が切除部位です。キズは自然に治って閉じます。
⑦体外に摘出した咽頭癌をピンで張り付けて伸ばしています。
左(通常観察):白い点は、病変のすぐ外側に目印となるように電気メスで付けたマークです。全周性にマークが認められ、切除予定だった範囲が切除出来たことが分かります。
右(ヨード染色後):薬液(ヨード)で染色すると、黄色矢印内に色の違う部分が出てきます。この部分が咽頭癌です。病理検査(顕微鏡での分析)で咽頭癌は完全に切除されており、治癒と判定されました。

咽頭癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の意義

内視鏡的粘膜下層剥離術 (ESD) は発声機能を残すことが出来るため、患者様にとって負担の軽い方法です。

ただし、適応になるのは、癌の転移がない初期の状態に限られます。

咽頭癌が進行すると、外科手術など、他の治療法が必要になります。

外科的な手術の場合、切除範囲によっては発声機能を失ったり、呼吸のために首に気管につながる穴を作ったりする場合もあり、患者様の生活に大きな影響を及ぼします。

そのため、咽頭癌を予防することが最も重要です。

また、咽頭癌が発生したとしても、ESDの適応になるような初期の状態で発見できるようにするため、定期的に胃カメラを受けていただくことも重要になります。

それでは、次に咽頭癌になりやすい患者様の特徴を確認し、予防するためにはどうすれば良いのかについて考えていきます。

咽頭癌になりやすい方の特徴

咽頭癌の原因

咽頭癌の原因として、以下が挙げられます。

・酒を飲む量が多い
・たばこを吸う回数が多い
・野菜・果物の摂取不足
・熱い食べ物や飲み物の摂取
・口の中の衛生環境が悪い

特に、酒、たばこは咽頭癌のリスクを上げる可能性が高いとされています。

一方、野菜・果物の摂取、歯磨きをして口の中の衛生環境を整えることで、咽頭癌のリスク低下が期待できます。

熱い食べ物・飲み物が咽頭癌のリスクになることについて、不思議に思われる方は多いかもしれませんが、咽頭の粘膜にやけどを繰り返し起こすことが癌の発生の原因となるようです。

咽頭だけに限らず、口腔、食道の癌のリスク要因にもなります。

口の中がやけどするほど熱い食べ物・飲み物が好きな方は、冷ましてから食べるなどの習慣を心がけられると良いでしょう。

飲酒で顔が赤くなりやすい方は、咽頭癌、食道癌になりやすいとされています。

また、咽頭癌は女性よりは男性に多いことが知られています。

咽頭癌は食道癌に合併しやすい

食道癌の原因として、酒、たばこがありますが、これは咽頭癌と同じです。

そのため、食道癌になりやすい方は、咽頭癌になりやすい方でもあります。

実際、食道癌と咽頭癌が同時に発見されるというケースは珍しくありません。

また、以前に食道癌の治療を受けた方は、その後、咽頭癌が発生する場合があり、定期的に胃カメラを受け、咽頭、食道の重点的な観察を受けることが望まれます。

食道癌については、以下の記事をご参照ください。

咽頭癌になりやすい方の特徴のまとめ

咽頭癌になりやすい方の特徴

・酒を飲む量が多い

・たばこを吸う回数が多い

・熱い食べ物・飲み物が好き

・酒を飲むと顔が赤くなりやすい

・男性

・野菜・果物をあまり食べない

・歯磨きをしないことが多い

・食道癌になったことがある

咽頭癌を早期発見するために

咽頭癌は症状が出るころには進行していることが多い

咽頭癌は、初期ではほとんど症状がないため、患者様が自分で気が付くことは難しい場合が多いです。

咽頭癌が時間の経過とともに大きくなると、食事の通りにくさ、息苦しさ、声のかすれなどの症状が出てきます。

また、首のリンパ節に咽頭癌が転移し、首に大きなしこりが出来てから初めて自分で気が付くケースもあります。

症状が出てからでは、ESDなどの負担の軽い治療法の適応外である場合が多く、外科手術など体への負担が大きな治療法が必要になります。

また、余命にも大きな影響が出てくる可能性もあります。

定期的に胃カメラを受けましょう

咽頭癌を早期に発見するためには、胃カメラを定期的に受けることが大切です。

とは言え、咽頭癌を早期に発見するのは、胃カメラに熟練している医師でも簡単なことではありません。

元々、観察しにくい部位であることに加え、詳しく観察しようとすると患者様の反射を誘発し、オエオエなってしまい、観察どころではなくなってしまう場合もあるからです。

前述した通り、咽頭癌のリスクが高い患者様においては、のどの観察をしてもオエオエなりにくい鼻から入れる胃カメラ(経鼻内視鏡)が有効だと思います。

私は、患者様の背景にもよりますが、咽頭癌のリスクがある患者様においては、鼻から入れる胃カメラを使用し、6か月~1年に1回程度の胃カメラを行い、経過観察をしています。

まとめ

“のど”の癌の一つである咽頭(いんとう)癌について述べてきました。

咽頭癌は耳鼻咽喉科の領域ですが、近年は胃カメラで咽頭を観察することが常識になりつつあり、胃カメラを行っている消化器内科などの医師も、咽頭癌の検査・治療に関わる機会が増えて来ています。

咽頭癌は初期の状態であれば、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)など患者様にとって負担の少ない治療で治る可能性が高くなるため、初期の状態で発見出来るように定期的に胃カメラを受けることが重要です。

経鼻内視鏡(鼻から入れる胃カメラ)を用いることで、咽頭癌を発見しやすくなるため、前述したような咽頭癌のリスクが高いと考えられる方は、経鼻内視鏡を受けられるのを検討されると良いと思います。

また、咽頭癌を予防するため、リスク要因である酒、たばこを控えるように心がけましょう。

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