米国消化器内視鏡学会の学術誌 VideoGIE 2019年4月号で、胃がんのESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)に関する論文を発表しました。
光栄なことに同月号のEditor’s choiceに選んでいただきました。
以下のボタンから、無料で論文にアクセス出来ます(著作権の一部を取得しています)。
ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)について
ESDは、胃カメラや大腸カメラの先から出した電気メスで、胃腸の癌(がん)などの病変を切除する治療法です。
ESDでは、外科手術と違い、おなかを切らなくても癌を切除することが出来ます。
また、臓器もそのまま残ります。
例えば、胃癌の外科手術には開腹手術と腹腔鏡手術がありますが、どちらの方法でも、胃の一部あるいは全部を切除します。
ESDでは、胃癌を剥がした部位が一時的にキズ(胃潰瘍:いかいよう)になりますが、胃の全部が残ります。
また、ESD後のキズは、通常は2か月程度で治って、元通りになります。
そのため、ESDは患者様への体の負担が少ない治療と言えます。
一方で、ESDには以下のような欠点もあります。
・治療に長い時間がかかる場合があること
・穿孔(せんこう:胃や腸の壁に穴があくこと)のリスクがあること
これらの欠点を克服するため、私はESDの技術的な難易度を下げ、安全かつ効率的に行う方法を研究しています。
その一つが、”トラクション法”と呼ばれるものです。
トラクション法とは
ESDでは、消化管(食道・胃・十二指腸・大腸など)の中に手を入れることは出来ないため、外科手術と違い、”左手で病変を固定して、右手で持った電気メスで病変を切る”といった動作が出来ません。
そのため、ESDでは電気メスで病変を切除していく際中、病変に有効な力が伝わりにくい場合があります。
トラクション法は、外科手術における左手の役割を果たします。
論文の概要
S-Oクリップについて
トラクション法にも色々な種類がありますが、今回の論文では、S-Oクリップと呼ばれる器具を用いた方法を報告しました。
S-Oクリップは、元々は大腸ESD用に開発された器具です。
今までの研究で、S-Oクリップの大腸ESDにおける有効性は確かめられています。
S-Oクリップの一番の利点は、引っ張りたい方向に引っ張れるという点です。
似たような器具は他にもありますが、引っ張れる方向が限定されていることが多いので、有効ではない場合があります。
S-Oクリップを用いた胃ESD
S-Oクリップは、胃のESDでも有効なはずですが、今まではほとんど報告がありませんでした。
その理由は、胃ESDでは胃カメラを反転させて行うケースが大腸ESDよりも多く、バネと胃カメラが引っかかってしまう懸念があるからだと思われます。
しかし、胃ESDでS-Oクリップを何度か使用している際に、一定の手順を踏めば、胃カメラ反転時でも、バネと胃カメラを接触させずに用いることが出来ることに気が付きました。
今回の論文では、その手順について動画を交えて詳しく説明しました。
ご興味のある方は、以下のVideoGIEの公式チャンネルから動画をご覧いただくことができます。
今後の展望
胃のESDにおいて、S-Oクリップを用いると明らかに難易度が下がるため、以下のような効果が期待できます。
・ESDの時間が短縮する
・穿孔(せんこう:胃腸の壁に穴があくこと)のリスクが下がる
今後は、データをまとめ、通常のESDとの違いなどについて、論文として報告していきたいと考えております。
【更新 2021/1/12】
その後、”通常の胃ESD”と”S-Oクリップを用いた胃ESD”の比較をした論文を、Surgical EndoscopyとGIE(Gastrointestinal Endoscopy)から発表しました。
どちらの研究でも、S-Oクリップを用いた方が統計学的に有意に治療時間が短縮しました。
これらの論文には動画が添付してあり、無料で視聴することが出来ます。
動画中では、内視鏡とS-Oクリップのバネの引っかかりを避ける方法について、VideoGIEの動画よりも詳しく説明してあります。
以下の記事で、Surgical Endoscopyに掲載された論文の概要をまとめてあります。
以下の記事では、Gastrointestinal Endoscopy に掲載された論文の概要をまとめてあります。
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