日本では昔から胃癌(いがん)で亡くなる方が多く、今も問題となっています。
以下の表をご覧下さい。
1位 | 2位 | 3位 | |
男性 | 肺癌 | 胃癌 | 大腸癌 |
女性 | 大腸癌 | 肺癌 | 膵臓癌 |
男性+女性 | 肺癌 | 大腸癌 | 胃癌 |
胃癌による死亡数(2018年)は、男性で2位、男性と女性を合わせると3位に入っています。
私は胃癌の内視鏡治療を日常的に行っていますが、その中で痛感するのは、早い段階で胃癌を発見することの重要性です。
早い段階で発見出来れば、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)でおなかを切らなくても胃癌を治すことが出来る可能性が高くなります。
しかし、胃癌の発見が遅れると、転移などの問題を起こし、命にかかわる可能性が出てきてしまいます。
このように、胃癌の早期発見は、患者様の運命を左右すると言っても過言ではないほど重要なポイントです。
この記事では、胃癌で起こる症状、症状が起きるタイミングやメカニズムなどをご説明いたします。
これらを知っていただくことで、早めに病院を受診し、必要な検査を受けるきっかけになると思います。
胃癌は病態が進行しないと自覚症状はほとんどない
胃癌は初期の状態では、ほとんど自覚症状がありません。
気が付かない間に、胃癌は徐々に大きくなり、癌の根も深くなっていきます。
そして、胃癌による症状が起きるころには、ある程度は病態が進行した状態になっていることが多いです。
そのため、症状が起きてから検査を受けても、胃癌を初期の状態で発見することは難しいです。
症状がなくても、人間ドックなどで胃カメラなどの定期検査を受けることで、胃癌を初期の状態で発見することが出来る可能性が高まります。
それでは次に、初期の胃癌(早期胃癌)と、病態が進行した胃癌(進行胃癌)の違いについて述べます。
早期胃癌と進行胃癌の違い
胃の壁は上の図のようになっています(分かりやすくするために、簡略化してあります)。
胃の内側から外側に向かって、粘膜、粘膜下層、筋層があります。
早期胃癌と進行胃癌の違いは、癌の根の深さです。
- 早期胃癌:胃癌の根の深さが粘膜、または粘膜下層
- 進行胃癌:胃癌の根の深さが筋層、または筋層よりも深い
早期胃癌は時間の経過とともに、徐々に進行胃癌へと変化していきます。
この間は、ほとんど自覚症状が出ないため、気が付かない間に癌が進行していきます。
胃癌による症状
早期胃癌の間は、症状はほとんど起きません。
しかし、進行胃癌になると、以下のような問題が起きます。
- 胃癌が胃の出口をふさぐ
- 潰瘍ができる
- 胃癌からにじみ出るように出血する
- 胃癌が転移する
それぞれを細かく見ていきます。
胃癌が胃の出口をふさぐ
胃の出口は小さな穴(幽門)になっており、十二指腸につながっています。
幽門は狭い構造になっているため、この近くに胃癌が出来ると胃の出口がさらに狭くなり、食べた物が奥に通らなくなってしまいます。
そうなると、胃の中に入った食べ物が、奥に流れにくくなります。
胃に食べた物がたまり続けると、胃がふくらみ、おなかが張った感じや、おなかの痛みなどが出てきます。
胃がパンパンになると、食べた物を吐き出してしまうこともあり得ます。
食欲はなくなり、食事がとれなくなることで体重も減っていきます。
- おなかが張る
- おなかが痛くなる
- 吐いてしまう
- 食欲がなくなる
- 体重が減る
潰瘍ができる
胃癌は進行すると潰瘍を形成することが多いです。
潰瘍を形成するレベルになると、みぞおちの辺りに痛み、不快感、違和感などの症状が出やすくなります。
ただ、患者様によっては、このレベルになっても自覚症状が乏しいことがあります。
潰瘍が深くなると、胃壁に穴があくこともありえます。そうなると、みぞおちに非常に強い痛みが出ます。
胃癌からにじみ出るように出血する
胃癌は、胃の中に入った食べ物が当たるなどの刺激により、にじみ出るように出血する場合があります。
出血が続くと貧血を起こします。
貧血を起こすと、疲れやすい、動悸、息切れ、めまいといった症状が起きてきます。
また、胃の中で出た血液は、黒い便として出てきます。
大量に出血した場合は、吐血を起こす場合もあります。
胃癌が転移する
胃癌が進行すると、血管やリンパ管を通じて、他の臓器やリンパ節に癌が転移する場合があります。
他の臓器に転移すると、その臓器の機能は低下し、それに伴う症状が起きてきます。
例えば、肝臓に転移すると肝臓の機能低下や、おなかの中に水(腹水)が溜まるなどの問題が起きてきます。
骨に転移することもありますが、そうなると痛みが出やすくなります。
さらに、胃癌が胃壁の外側まで露出すると、癌細胞がおなかの中にまき散らされ、広がっていきます(腹膜播種性転移)。
なお、胃癌の転移はCT、エコーなどの検査で調べることが出来ます。
胃癌を発見するために必要な検査
胃癌を発見するための検査としては、以下の2つが代表的です。
・胃カメラ
・バリウム
どちらもおなじみの検査だと思いますが、お勧めなのは胃カメラです。
胃カメラは食道、胃、十二指腸の粘膜を直接、観察することができるため、小さな癌でも発見しやすくなります。
また、バリウムの検査と違い、その場で組織の採取(生検)を行い、顕微鏡での分析に回すことが出来ます。
癌かどうかの診断を確定するためには、基本的には生検が必要です。
バリウムで異常があった場合、胃カメラで再検査になることが多いため、最初から胃カメラを受けることをお勧めいたします。
胃カメラは苦しい、つらいなどのイメージをお持ちの方も多いとは思います。
しかし、最近は鎮静剤の使用、鼻から入れる細い胃カメラの使用などで、胃カメラは昔よりも楽に受けられる検査になってきています。
まとめ
ここまで見てきたように、進行した胃癌は、様々な症状を起こします。
一方、胃癌が初期の段階の場合、ほとんど自覚症状がありません。
そのため、胃癌の早期発見のためには、症状がなくても胃カメラを定期的に受けられることをお勧めいたします。
なお、胃癌の多くはピロリ菌の感染が原因となっています。
ピロリ菌がいる方、ピロリ菌の除菌治療を受けた方は、特に胃癌に注意が必要であり、1年に1回程度は胃カメラを受けることをお勧めいたします。
ピロリ菌については、下記の記事をご参照下さい。
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