以前は、日本人の多くがピロリ菌に感染していました。
最近は、衛生環境が良くなったことなどにより、ピロリ菌に一度も感染したことがない若い世代が増えています。
胃癌の主な原因はピロリ菌の感染と言われており、ピロリ菌の感染者が減ることにより、胃癌も減っていくことが期待されています。
しかし、ピロリ菌に感染したことがなくても、胃癌にならないわけではありません。
この記事では、ピロリ菌に一度も感染したことがないのに発生する胃癌(ピロリ菌未感染胃癌)について述べていきます。
ピロリ菌について
胃癌の多くはピロリ菌が原因
ピロリ菌は、正式には「ヘリコバクター・ピロリ」と呼ばれる細菌です。
この記事では、分かりやすくするために、“ピロリ菌“で統一します。
胃癌の多くはピロリ菌が原因と言われています。
胃癌の約99%はピロリ菌の感染が原因。
出典:Helicobacter. 2011; 16(6): 415-9
ピロリ菌に感染したことが一度もない患者様にも胃癌が発生しないわけではありませんが、非常に珍しいことです。
若い世代ではピロリ菌者は少ない
日本では、年齢が高いほどピロリ菌に感染している人が多いです。
2010年におけるピロリ菌の推定感染率を表すグラフをお示しします。
このグラフで分かるように、年齢が若いほどピロリ菌の感染率が低くなっています。
20歳代:10%以下
60歳代以上:50%以上
ピロリ菌の感染は、衛生環境(井戸水などの摂取)の影響が指摘されています。
最近では、衛生環境が良くなってきたため、若い世代におけるピロリ菌感染者は少なくなったと考えられています。
ピロリ菌感染者の減少に伴い、胃癌の減少も期待されています。
「ピロリ菌に感染していない」の意味
「ピロリ菌に感染していない」とは、厳密には以下の2つの状態があります。
①ピロリ菌“未”感染:ピロリ菌に一度も感染したことがない
②ピロリ菌“既”感染:ピロリ菌に感染していたが、除菌治療でピロリ菌に感染していない状態になった
①と②は分かりにくいですが、混同しないようにご注意ください。
若い世代では、①のピロリ菌“未”感染が増えてきています。
②のピロリ菌“既”感染者に発生する胃癌は、ピロリ菌除菌後に発生する胃癌であることから、“除菌後胃癌“と呼ばれています。
保険診療でピロリ菌の除菌治療が出来るようになったのは良いことですが、一方で、除菌後胃癌が新たな問題になっています。
除菌後胃癌については、下記の記事をご参照下さい。
ピロリ菌“未”感染胃癌のタイプ
ピロリ菌未感染胃癌には、いつくかタイプがあります。
ラズベリー型胃癌
胃癌の一種で、見た目がラズベリーに似ているため、ラズベリー型胃癌と呼ばれています。
病理学的には、胃型形質低異形度高分化型腺癌と診断されることが多いようです。
ラズベリー型胃癌の方が特徴を表しており、分かりやすいかもしれません。
個人的には、内視鏡治療目的でご紹介を受けるケースが増えているタイプです。
・胃の上の方にできることが多い
・5mm~10mm程度の小さなものが多い
・赤みが強い
一見すると過形成性ポリープ(良性ポリープの一種)にも見えるため、診断が難しいとされています。
ピロリ菌未感染者は、ピロリ菌感染者と違い、胃のヒダがしっかりと残っています。病変がヒダとヒダの間に隠れてしまい、見つけにくい場合があります。
また、病変のサイズが小さいことが多いため、生検(病変の組織を採取すること)で病変の大部分がなくなってしまい、次に胃カメラをしたときには、病変が消失してしまったように見える場合があります。このような場合、見た目では認識できなくても、実際には癌が残っている可能性があるため、注意が必要です。
白色扁平隆起型胃癌
白色扁平隆起型胃癌は、正式名称ではありませんが、特徴をよく表しており分かりやすいと思います。
病理学的には、胃型形質低異形度高分化型腺癌に分類されることが多いようです。
非常に稀で、論文などでも報告は限られています。
・胃の上の方に発生することが多い
・腺腫と呼ばれる良性腫瘍と鑑別が難しい
未分化型胃癌
悪性度が高いタイプです。
写真を見てお分かりのように、炎症との見分けが難しく、発見が難しいとされています。
・胃の下の方に発生することが多い
・平坦または少し凹んでいることが多い
・発見が難しい
胃底腺型胃癌
2010年に日本から初めて報告された新しい概念の胃癌です。
・胃の上の方に発生することが多い
・少し隆起しており、粘膜下腫瘍のような見た目をしていることが多い
・発見が難しい
まとめ
ピロリ菌“未”感染胃癌について述べて来ました。
若い世代では、ピロリ菌に一度も感染したことがない人(ピロリ菌未感染者)の割合が増えて来ています。
そのため、今後、このピロリ菌“未”感染胃癌が増えてくる可能性があります。
最近は人間ドックでピロリ菌の検査を受けられる施設も増えています。
検査で、自分にピロリ菌の感染がないことを知っている患者様も増えているかもしれません。
しかし、ここまで述べてきたように、ピロリ菌未感染でも胃癌にならないというわけではありません。
特に、未分化型胃癌はピロリ菌未感染胃癌の中でも悪性度が高く、注意が必要です。
胃癌を早期に発見するために一番良いのは、胃カメラを定期的に受けることです。
胃癌を早期発見出来れば、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で、おなかを切らなくても胃癌を治すことが出来る可能性が高くなります。
また、胃カメラでは胃癌以外に、食道癌、十二指腸癌など、胃以外の癌も見つけることが出来ます。
胃カメラを受ける頻度は患者様の状態によるため一概には言えませんが、病気を早く発見するためには、年1回がお勧めです。
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