腹部CT検査(おなかのCT検査)は、おなかの痛みなどの原因を調べるために行われる検査で、聞いたことがある患者様も多いのではないでしょうか。
しかし、いざ自分が受けることになった場合、検査の意義、超音波(エコー)検査との違い、放射線の被ばく、造影剤、当日の注意点、費用など色々気になることは多いですよね。
外来では医師は忙しそうにしていることが多く、なかなか細かい点については聞きにくいかもしれません。
私は普段、胃腸の病気を診療しており、特に腹部CT検査は関わりの大きい検査の一つです。がんの内視鏡治療を中心に診療を行っているため、術前、術後にがんの転移などがないか調べるために腹部CT検査を行うことが多いです。
この記事では、私が外来で患者様から聞かれた質問などを元に、腹部CT検査について、出来るだけ患者様に分かりやすい言葉で説明します。
腹部CT検査の意義
CTとは、“Computed Tomography (コンピューター断層撮影法)”の略語で、体の断面図を撮影することが出来ます。
mm単位の間隔で細かく断面図をとることが出来るため、レントゲンに比べ、おなかの中を詳しく見ることが出来ます。
腹部CT検査では、胃、小腸、大腸、肝臓、胆のう、胆管、膵臓、脾臓、腎臓、前立腺、子宮、卵巣、リンパ節などに異常がないかを調べます。
超音波(エコー)検査とCT検査の違い
超音波検査では、ガスや骨の下にあるものは見えにくく、診断が難しい場合があります。
しかし、CTではガスや骨の下にあるものも見ることが出来ます。
そのため、一般的にCT検査は超音波検査よりも情報量が多い検査ということが出来るでしょう。
ただし、CT検査では放射線の被ばくがあります。1回のCT検査で受ける放射線の量は、基本的には体にほとんど影響が出ない範囲ですが、必要性を十分検討してから行う必要があります。
一方、超音波検査には、“放射線に被ばくしない“という利点があります。そのため、CT検査に比べ、超音波検査は患者様への負担が軽く、行いやすい検査です。
また、超音波検査は迅速に行うことが出来ます。患者様を動かすことが出来ないような状況であったとしても、超音波検査の装置を運んできて、その場ですぐに行うことも出来ます。
一方、CT検査の場合、撮影自体は5~10分程度で終わることが多いですが、患者様を検査室に運んで、撮影してという一連の動作が必要になります。また、造影剤を使用する場合は、一般的には血液検査で腎臓の機能などを確認してから行われるため、どうしても時間がかかってしまいます。
以上のような理由から、CT検査と超音波検査は一概にどちらが優れた検査ということは出来ません。
患者様の状態や、検査の目的によって使い分けられています。
- CT検査は腹部超音波検査より情報が多い
- 超音波検査は簡便、迅速に行うことができ、放射線の被ばくがない
胃カメラ・大腸カメラと腹部CT検査の違い
胃カメラ・大腸カメラは食道・胃・十二指腸・大腸の内側の状態は分かりますが、その外を見ることは出来ません。
おなかの症状(腹痛など)があっても、それは胃や腸の異常ではなく、胆のうや膵臓などの病気が原因の場合があり、胃カメラ・大腸カメラだけでは原因が分からないことがあります。
- 胃カメラ、大腸カメラ → 食道・胃・十二指腸・大腸の内側を、詳細に調べることが出来る。
- 腹部CT検査→ 胃、小腸、大腸、肝臓、胆のう、胆管、膵臓、脾臓、腎臓、前立腺、子宮、卵巣、リンパ節などを調べることが出来る。
このように、胃カメラ・大腸カメラと腹部CT検査は守備範囲が違います。
また、胃カメラ・大腸カメラでは数mmの小さながんでも診断することが可能ですが、腹部CTでは胃や腸の中の小さながんを発見するのは困難です。
さらに、胃カメラ・大腸カメラでは、必要に応じて、生検(組織を採取して、病理検査を行うこと)が出来ます。
一方、腹部CT検査では生検は行えないため、撮影された画像所見から病気を診断します。
- 胃カメラ、大腸カメラ:胃や腸の内側を詳細に観察できる。生検(組織の採取)が可能。
- 腹部CT検査:胃や腸の外側を詳細に調べることが出来る。内側の情報は胃カメラ・大腸カメラに劣る。生検(組織の採取)は出来ない。
造影CT検査(造影剤を使用したCT検査)
CTは、単純CT(造影剤を使用しないCT)と造影CTに分けられます。
造影CT検査では、“造影剤”を点滴で体内に注入してから、撮影します。
造影剤により、臓器に染まりができ、その染まり具合で病気の診断をより詳細に行うことができるようになります。
そのため、造影剤を使用しない単純CT検査に比べ、診断力が上がります。
造影剤の副作用について
造影剤では、以下のような副作用もあるため注意が必要です。
- 軽い副作用:吐き気、嘔吐、めまい、発疹、かゆみ など
- 重い副作用:不整脈、血圧低下、呼吸困難、けいれん、腎不全、意識消失 など
次のような方は、造影剤で副作用が起こりやすいため、必ず検査の前に担当者にお伝えください。
- 今までに造影剤による副作用を起こしたことのある方
- 喘息などアレルギー性疾患をお持ちの方
- 他の薬でアレルギーが出たことがある方
- 心臓の病気、腎臓の病気、糖尿病、甲状腺の病気をお持ちの方
造影剤が血管の外に漏れて、痛みや腫れが生じる場合があります。
点滴が入っている部位に痛みなどの異常がある場合は、担当者にお伝えください。
腹部CT検査の実際と注意点
腹部CT検査にかかる時間
- 単純CT検査:約5分
- 造影CT検査:約10分
※準備、移動などの時間が別途必要です。
常用している薬について
造影CT検査の場合、ビグアナイド剤(糖尿病の薬の一種)は、まれに乳酸アシドーシスという重篤な副作用を起こす可能性があり、造影CT検査前後で内服を中止します。
何日間内服を中止するかについては、担当医にご確認下さい。
- メトグルコ
- メトホルミン
- グリコラン
- メデット
- ネルビス
- メトリオン
- メルビン
- メタクト
- ジベトス
- ジベトン
※ここに記載されていない新しい名前の薬剤が発売される可能性があるため、糖尿病の内服薬を使用している患者様は、造影CT検査の前に薬の内服の可否について、必ず担当医にご確認下さい。
また、食事を止める際は、それに合わせて薬の中止が必要になる場合があります。
その他の薬でも、休薬した方が良い場合があるため、事前に担当医にご確認下さい。
検査前
妊娠中、妊娠の可能性がある場合は、胎児に影響が出る可能性があるため、原則としてCT検査は行いません。必ず担当者にお伝えください。
基本的に、検査前は食事をとらないようにします。
造影剤を使用する場合は、食事を摂取から4時間程度はあけます。
ヘアピン、アクセサリー、義歯などは外します。
造影剤を使用する場合は、事前に点滴を入れます。
バリウム検査を受けていた場合は、腸の中にバリウムが残存し、診断に影響が出る場合があるため数日間はあける必要があるため、担当者にご確認下さい。
検査中
撮影台に乗り、あおむけになります。
「息を吸って、止めて下さい」などと、声かけがあるため、ご協力ください。
息を止める理由は、呼吸による写真のブレを防ぐためです。
造影剤を入れる場合は、体が熱くなるような感覚がありますが、ほとんどの場合、自然におさまります。
痛みや気分の悪さなどがあれば、お伝えください。
検査後
検査後に、何か症状がある場合は担当者にお伝えください。
造影剤を使用した場合は、無理のない範囲で水分を多めに摂取し、造影剤の排泄を促します。
帰宅後に、発疹、かゆみ、気分が悪いなどの症状があった場合は、すぐに病院を受診して下さい。
検査結果の説明について
最近は放射線科医の読影レポートが出来てから、結果を説明されるようになってきています。
施設にもよりもますが、レポートが出来上がるまで数日から1週間程度かかります。
そのため、検査の結果は約1週間後に外来で行われることが多いです。
費用
3割負担の場合
- 単純CT検査:約5000円
- 造影CT検査:約10,000円
※保険などによって変わるため、目安とお考え下さい。気になる方は、病院の経理担当者にお問い合わせ下さい。
まとめ
- 腹部CT検査は、おなかの中を詳細に観察することが出来る。
- レントゲン、腹部超音波検査よりも一般的に情報が多く、病気の診断に有用。
- 胃カメラ、大腸カメラと違い、胃腸の外側も観察出来る。
- 放射線の被ばくがあるため、他の検査では診断が困難などの理由がある場合に行う。
色々な検査がありますが、それぞれ特性が異なります。以下の記事もご参照下さい。
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