Underwater ESDは、生理食塩水の中で行うESDで、2016年頃から大腸の腫瘍を中心に、初期の治療例の報告が見られるようになりました(Yoshii S, et al. Endoscopy 2016)。
我々は、米国消化器内視鏡学会の学術誌 VideoGIE (2018年12月号) から十二指腸腫瘍に対するunderwater ESDを報告しました。
光栄なことに同月号のEditor’s choiceに選んでいただきました。
・論文タイトル
Underwater endoscopic submucosal dissection in saline solution using a bent-type knife for duodenal tumor
・誌名、発表年、号、ページ
VideoGIE 2018; 3(12): 375-377
論文を読みたい方は、以下のボタンからアクセス出来ます。
動画はYou Tubeでもご覧いただけます。
ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)とは
ESDとは「Endoscopic Submucosal Dissection」の略語で、日本語では、「内視鏡的粘膜下層剥離術」と呼ばれます。
これは、内視鏡(胃カメラ、大腸カメラ)の先から出した電気メスで、消化管(食道・胃・十二指腸・大腸など)の腫瘍(がん、がんになる手前の病変)を切除する治療法です。
外科手術と違い、おなかや胸を切らなくても腫瘍を切除することが出来るため、体にキズは出来ません。
また、胃や腸が小さくなったり、短くなったりするようなことがないため、体への負担が少ない治療と言えます。
ESDに関しては、以下の記事に詳しくまとめてあります。興味のある方は、ご覧になって下さい。
十二指腸腫瘍に対するESDが難しい理由
ESDは、2000年ころに日本で開発され、現在では、食道・胃・大腸の腫瘍に対する標準的な治療になっており、多くの病院で広く行われています。
しかし、十二指腸腫瘍においては標準的な治療法とは言い難く、限られた施設でのみ行われています。
その理由は以下の通りです。
・十二指腸の壁は薄く、ESD術中に壁に穴があく(穿孔)が起こりやすい
・膵液などの影響で、ESD術後にも穿孔が起こりやすい
・十二指腸に穴があくと重症になりやすい
・粘膜の下の層が薄く、内視鏡を入れる“すき間”が作りにくい
・十二指腸は曲がりくねっていて、内視鏡を操作するのが難しい
一方で、十二指腸腫瘍の外科手術は体への負担が大きい術式になる場合があります。
Underwater ESD
通常のESDは、ガスで膨らませた消化管(食道・胃・十二指腸・大腸など)の中で行われます。

今回の報告は、生理食塩水で膨らませた消化管の中で行うESDです。
英語では、Underwater ESDと呼んでいます。
GIE(Gastrointestinal Endoscopy)という学術誌の2018年5月号で、大腸腫瘍に対するunderwater ESDを発表しており、今回は十二指腸腫瘍への応用という内容になります。

Underwater ESDで得られる代表的な利点として、以下の4つがあります。
・浮力
・良好な視野
・吸熱効果
・水圧(water pressure method)
これらがESDにおいて利点となる理由について述べます。
浮力
生理食塩水の中では、浮力が重力と逆側に働きます。
流体中の物体は、その物体が押しのけている流体の重さ(重量)と同じ大きさで上向きの浮力を受ける。
アルキメデスの原理
そのため、病変が重力側の場合、粘膜が浮かび上がり、粘膜の下に内視鏡が入り込みやすくなります。

ESDは、粘膜の下の層(粘膜下層)をはがしながら病変を切り取る治療です。粘膜がしっかり開いていると、治療を進めやすくなります。
良好な視野
浸水下では、見かけ上の拡大効果(目安として約1.3倍)や反射の低減が得られます。
また、煙やレンズへの脂肪付着による見えにくさも軽減しやすくなります。
そのため、術野を観察しやすくなり、穿孔のリスクを回避しやすくなります。
十二指腸では、粘膜の下のスペースが狭く、見えにくいことが多いため、underwater ESDによる視野の改善効果は有用と考えられます。
吸熱効果
吸熱効果とは、まわりの熱を吸い取って、温度を下げるはたらきのことです。
身近な例が「うち水」です。地面に水をまくと、水が蒸発するときに周りの熱をうばうため、地面や空気が少し涼しく感じます。
内視鏡治療でも同じで、生理食塩水があることで、熱が加わったときにその熱の一部を受け止め、周りの組織が必要以上に熱くなりにくくなる効果が期待できます。
イメージとしては、「生理食塩水がクッションのように熱を受け止めて、熱の広がりをやわらげてくれる」と考えてもらうと分かりやすいと思います。

過去の症例を振り返って調べた研究では、underwater ESDにより、大腸の治療後に起こる「ESD後凝固症候群」が少なくなる可能性が示されています(Koyama, JGH, 2023)。
ESD後凝固症候群とは、明らかな穴あき(穿孔)がないのに、治療後に限局した腹痛などが出る状態のことです。生理食塩水の熱を受け止める作用(吸熱効果)が、こうしたリスク低下に関係している可能性があります。
十二指腸は壁が薄いので、治療で熱が加わると、治療後に穴があくことがありますが、吸熱効果により、そのリスクを下げられる可能性があります。
水圧(water pressure method)
ESDで使う内視鏡には、水を出す「送水機能」が付いています。
この送水を使って、たれてきた粘膜を押し広げることは、通常のESDでも行われていました。
ただし、水をかけると水しぶきが跳ね返り、視野が悪くなることがあります。
Underwater ESDでは、内視鏡の先端が最初から液体の中にあるため、水しぶきで見えにくくなることはありません。
さらに、送水機能で水の圧をかけることで、切開した部分が開きやすくなり、粘膜も持ち上がります。その結果、粘膜の下の層に入りやすくなり、病変を安全に切除しやすくなります(Yahagi N, et al. Endoscopy 2017)。

まとめ
Underwater ESDには送気下で行われる通常のESDにはない利点があり、難易度が高い十二指腸症例で有用と考えられます。
※大腸におけるunderwater ESDは、以下の記事でまとめてあります。
追記
2022年に、Underwater ESD用のフード(内視鏡先端に装着する処置具)を発表しました(2020年 特許出願)。
2026年 特許査定を受けました(関連出願:分割出願中)
このフードの関連報告
高難易度症例(亜全周性十二指腸腫瘍)に対するunderwater ESD
Underwater endoscopic submucosal dissection using a tapered hood with air bubble outlets for a subcircumferential duodenal tumor.
Digestive Endoscopy 2024; 36(2): 225–227.




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