
(日本消化器内視鏡学会の英文誌)
Underwater ESDは、気体の中で行う従来法では苦手になりやすい状況に対して有用となることがあります。
また、トラクション法との併用、状況に応じた従来法との使い分けが可能である点など、様々な利点があります。
一方で、解決されていない課題もあります。
なかでも、術中に生じる気泡は視野を障害し、手技の妨げになります。
特に、フード(内視鏡先端に装着する処置具)内に気泡が入り込むと良好な視野を得にくくなります。
このような状況では、内視鏡からの送水などでフード外への排出が必要になりますが、ときに排出が困難な状況が生じ得ます。
この課題を解決するため、側面に気泡の排出口となる穴を設けたフードを発明し、2020年に特許出願しました。
2026年 特許査定を受けました(関連出願:分割出願中)
今回、このフードのコンセプトを、Digestive Endoscopy から報告しました。
Underwater ESDとは
ESDは、食道・胃・十二指腸・大腸の早期がんなどを、内視鏡を利用して切除する方法です。
ESDは元々、気体で拡張された腸管の中で行われてきましたが、2016年、生理食塩水で拡張させた腸管内で行う underwater ESD が開発されました。
私は、underwater ESDの有用性に着目し、2018年に論文として報告しました。

Underwater ESD の利点として、以下のようなものがあります。
・ハレーションのない拡大された視野が得られる
・浮力や水圧により術野の展開が得られる
・吸熱効果により組織へのダメージが軽減される可能性がある
フード側面の穴の意義
ESDの際、内視鏡の先端にフードと呼ばれる処置具を装着します。
フードを装着することで、対象物と内視鏡のレンズの間に適切な距離を保ち、視野を確保することが出来ます。
通常のESDは気体中で行われるため、フードの中に液体が溜まると、レンズに液体が付着し、見えにくくなることがあります。
そこで、視野をできるだけクリアに保つため、フードの側面には「水を外に逃がす穴(排水口のような穴)」があけられています。
この穴は、毛細管現象(細いすき間に液体が吸い上げられる性質)を利用して、液体が外へ流れやすいように作られています。
毛細管現象を使って排水するには、一般に穴は細いほうが有利とされます。
そのため、市販のフードの穴は、基本的に小さめ(狭め)に設計されています。

Underwater ESD の課題:気泡による視野障害
Underwater ESDでは、処置中に発生する気泡のせいで、術野が見えにくくなることがあります。
特に、フードの中に気泡が入り込むと、視野が一気に悪くなりやすいのが問題です。
こうしたときは通常、内視鏡先端から送水して、フードの先端から気泡を外へ押し出します。
ただし、状況によってはうまく排出できないこともあります。
また、Underwater ESDでは先細り状のフードがよく使われますが、フード先端の開口部が狭いため、気泡が出口でつかえて外に出にくくなる場合があります。


この課題を解決するため、フード側面に気泡を排出しやすくするための穴(気泡排出口)を複数設置するアイデアを思いつきました。

気泡排出口は広く、数が多い方が、気泡の排出効率は上がると考えられます。

ただし、気泡排出口(穴)を大きくしすぎると、別の問題が起きる可能性があります。
・穴が広いぶん、フードの強度(耐久性)が落ちる
・フードの外から、組織片などが入り込みやすくなる
そのため、気泡排出口のサイズには、小さすぎず、大きすぎない、適度なバランスが必要です。
まとめ
Underwater ESDは、内視鏡治療の可能性をさらに広げる手技です。
ただ、現状では、「浸水下で使うこと」を前提に作られた処置具はほとんどなく、今後の開発が期待されます。
今回報告したフードの構造は、これまでの一般的な考え方――
「フード側面の穴は排水のためで、毛細管現象が働くように狭いほうがよい」
――とは逆の発想に基づくものです。
浸水下と送気下では環境が大きく異なるため、求められる処置具の構造も変わります。
今後も研究を重ね、患者さんの役に立つ情報を発信できるよう努めてまいります。
追記
関連する臨床報告・技術報告(動画あり / オープンアクセス)
1)臨床報告(高難易度:亜全周性十二指腸腫瘍の underwater ESD)
Underwater endoscopic submucosal dissection using a tapered hood with air bubble outlets for a subcircumferential duodenal tumor.
Digestive Endoscopy 2024; 36(2): 225–227.
2)気泡が排出されにくい状況で有効であった工夫(気泡の小型化による自動排出の促進)
Continuous low water pressure dissection technique minimizing air bubbles during underwater endoscopic submucosal dissection.
Endoscopy 2024; 56: E699–E700.
※現在は手技を一部アップデートしており、整理でき次第、改めて報告予定です。
3)出血時の視野障害(red out)への対応
Underwater compression hemostasis method for active bleeding in underwater endoscopic submucosal dissection.
Endoscopy 2025; 57: E257–E258.



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