ピロリ菌は胃癌(いがん)や胃炎の原因になることはよく知られています。

そのため、ピロリ菌の感染がある場合、一般的にピロリ菌の除菌が行われます。

しかし、注意が必要なのは、「ピロリ菌の除菌が成功しても、胃癌のリスクがゼロになるわけではない」ということです。

実際、ピロリ菌の除菌が成功した後にもかかわらず、定期検査の胃カメラで、胃癌が発見される患者様は決して珍しくはありません。

さらに、ピロリ菌の除菌後に発生する胃癌には、胃カメラで発見しにくい、範囲が分かりにくいなどの問題があります。

私は普段、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で胃癌の治療をしており、ピロリ菌の除菌も行っています。

この記事では、日常診療で患者様から受けたご質問などを元に、ピロリ菌の除菌後に発生する胃癌について考えていきます。

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ピロリ菌とは

ピロリ菌は胃の中に住み着き、胃癌の原因になります。

ピロリ菌は、正式には「ヘリコバクター・ピロリ」と呼ばれる細菌です。

この記事では、分かりやすくするために、“ピロリ菌“で統一します。

ピロリ菌は胃癌の原因になることが問題です。

胃癌の約99%はピロリ菌の感染が原因。

出典:Helicobacter. 2011; 16(6): 415-9

ピロリ菌に感染したことが一度もない患者様にも胃癌が発生しないわけではありませんが、非常に珍しいことです。

日本では、年齢が高いほどピロリ菌に感染している人が多いです。

若い世代のピロリ菌感染者は少ないため、今後、胃癌は徐々に減少していくと考えられています。

しかし、以下の表を見ると分かるように、日本人の胃癌による死亡数はいまだ上位を占めています。

死亡数が多いがんの順位(2018年)

 1位2位3位
男性肺がん胃がん大腸がん
女性大腸がん肺がん膵臓がん
男性+女性肺がん大腸がん胃がん

出典:国立がん研究センター がん情報サービス

https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

ピロリ菌除菌による胃癌リスク低下への期待

ピロリ菌は薬で除菌できます。

ピロリ菌は薬(胃薬と2種類の抗生物質)を1週間飲めば、除菌できることが多いです。

今までの研究で、ピロリ菌の除菌により、新しく発生する胃癌のリスクが低下する可能性が示唆されています。

胃癌の内視鏡治療後(ESDなど)にピロリ菌除菌を行うことで、新しく胃癌が発生するリスクが約1/3に低下した。

出典:Lancet 2008; 372(9636): 392-7

私は普段の診療で、胃癌を内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で治療しています。

ESDでは、外科の手術と違い、おなかを切らなくても済みます。

また、胃全体を残すことが出来ます。

しかし、ピロリ菌に感染している状態であれば、残っている胃に新しく胃癌が発生しやすくなります。

そのため、ESDで胃癌を治療する患者様は、基本的にピロリ菌の除菌もしています。

ESDの詳細については、以下の記事をご参照ください。

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ピロリ菌除菌後に発生する胃癌(除菌後胃癌)

ピロリ菌除菌後の胃癌のリスク

ピロリ菌の除菌により胃癌の発生リスクが下がる可能性について述べて来ました。

ただし、ピロリ菌を除菌しても胃癌になる可能性がゼロになるわけではない、ということに注意が必要です。

以下に最近の研究の結果をお示しします。

ピロリ菌除菌後も年率0.35%で胃癌が発生した。

出典:J Gastroenterol 2020; 55: 281-288

ピロリ菌除菌後の胃癌は、”萎縮”と呼ばれる胃の粘膜の状態と関連しているようです。

胃粘膜の萎縮が高度な場合、除菌後でも胃癌のリスクが高い可能性がある。

出典:J Gastroenterol 2007; 42: 21-27

胃粘膜の萎縮が軽度・中等度であっても、ピロリ菌除菌の10年以降に未分化型と呼ばれる胃癌のリスクが高まる可能性がある。

出典:J Gastroenterol 2020; 55: 281-288

ピロリ菌除菌後に発生する胃癌の特徴

ピロリ菌の除菌後に発生する胃癌は、胃カメラで発見しにくい場合があります。

ピロリ菌の除菌により、胃の粘膜の色調が変化したり、凹凸が出来たりして、胃癌を見分けにくくなること原因です。

また、胃癌の範囲が分かりにくくなり、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)による治療の際、切除する範囲を決めるのが難しくなることがあります。

このように、ピロリ菌除菌後に発生する胃癌の診断、治療は難しい場合があるため、十分に注意が必要です。

ピロリ菌除菌後に発見された胃癌の具体例をお示しします。

ピロリ菌除菌後の胃の中を胃カメラで観察しています。この視野の中に非常に分かりにくい小さな胃癌が隠れています。
黄色の枠内で、やや粘膜が凹んでいるように見えます。しかし、ピロリ菌除菌の影響で周りもデコボコしており、胃癌かどうかはっきりしません。
NBIという特殊なモードで黄色の枠内を顕微鏡レベルで拡大しています。色味が変わっているのはNBIで観察している影響です。黄色の矢印の内側の模様は、外側と比べて構造が異なり、乱れていることが分かります。この構造の乱れで胃癌の疑いが強いと診断できます。生検(組織の採取)をして顕微鏡で分析したところ、胃癌と診断されました。

胃癌を早期発見するために

ここまで述べてきたように、ピロリ菌除菌による胃癌の予防効果は、絶対的なものではありません。

しかし、胃癌が発生しても、早期胃癌の段階で発見出来れば、体に負担の軽い内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で治すことが出来ます。

早期胃癌の段階で発見するためには、定期的に胃カメラを受けていただくことが重要です。

ピロリ菌除菌後に胃カメラを受ける間隔

ピロリ菌除菌後に、どれくらいの間隔で胃カメラを受ければ良いかは、難しい問題です。

短い間隔で胃カメラを受ければ、胃癌を出来たばかりのタイミングで見つけられる可能性が高くなります。しかし、患者様には負担が大きくなってしまいます。

一方、胃カメラの間隔を長くすれば、検査の負担は軽くなりますが、胃癌の発見が遅れる可能性があります。

胃癌による死亡のリスクは年齢、性別などによっても異なるため、リスクに応じて胃カメラの間隔を設定するという考え方がありますが、まだデータなどが不足しており、現段階では統一することは難しいと言えます。

現状では、ピロリ菌感染のある患者様、ピロリ菌除菌後の患者様には、年1回の胃カメラを勧める医師が多い印象です。

まとめ

ピロリ菌除菌後に発生する胃癌について、述べて来ました。

要点をまとめます。

・ピロリ菌を除菌しても胃癌が出来る場合がある。
・ピロリ菌除菌後も、胃癌の早期発見のため、年1回程度の胃カメラが望ましい。
・早期の胃癌は、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)によりおなかを切らなくても治療できる。

当科(湘南藤沢徳洲会病院・内視鏡内科)では、毎年多くの胃癌患者様を、”内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)”で治療しています。

私は胃癌のESDを安全・確実・効率的に行う方法を研究しており、その研究の結果はGastrointestinal Endoscopy (GIE)、Surgical Endoscopyなどの内視鏡専門誌に掲載されています。

当科でのESDは、全て私が担当させていただいております。

当科で胃癌のESDをご希望される患者様は、以下のお問い合わせからお気軽にお問い合わせください。

湘南藤沢徳洲会病院の予約センター(TEL 0466-35-1350 月~金曜日9:00~16:30、土曜日9:00〜14:00/日曜日・祝日は除く)で、私の外来(内視鏡内科外来)をご予約の上、お越しいただくことも可能です。

ESDの詳細については、以下の記事をご参照ください。

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