「大腸ポリープ」と一口で言っても、小さなポリープから大きなポリープ、癌(がん)になるポリープと癌にならないポリープなど、色々な種類があります。
私は内視鏡治療専門医として、日々、大腸ポリープなどの治療を行っております。その立場から、大腸ポリープの切除に関して解説させていただきたいと思います。
大腸ポリープとは
大腸ポリープとは、大腸の内側にイボのように盛り上がっている病変です。大腸カメラは大腸の内側を詳細に観察できるため、数ミリ程度の小さな大腸ポリープでも発見することが出来ます。
以下の表をご覧下さい。大腸ポリープにも色々な種類があり、細かく分類されているのがお分かりになると思います。
この内、切除の対象になるのは、腫瘍性ポリープ(がん、腺腫など)です。
“腫瘍性“とは、細胞・組織が異常に増殖する性質を持つことを意味しており、簡単に言えば、”制御が出来ない状態“です。
腫瘍性ポリープの内、悪性(がん)を切除するのはご理解いただけると思います。
良性の腫瘍性ポリープ(腺腫など)はなぜ切除しなければならないのでしょうか?次の項でご説明します。
良性の腫瘍性ポリープを切除する理由
良性の腫瘍性ポリープの代表として、腺腫が挙げられます。
腺腫以外で切除した方が良い良性ポリープとして、SSA/Pという名前のポリープもあります。
それぞれ、切除した方が良い理由をご説明します。
腺腫を切除した方が良い理由
腺腫は、時間の経過とともに、がんに変化していくことが分かっており、この機序を”adenoma carcinoma sequence”と呼びます。多くの大腸がんは、この機序で発生していると考えられています。
そのため、腺腫を切除することにより、大腸がんの発生を抑え、大腸がんによる死亡リスクを低下させることが出来ます。研究でもそのようなデータが示されています。
大腸カメラで腺腫(大腸ポリープの一種)を全て切除することにより、大腸がんによる死亡率が53%低下した。
New England Journal of Medicine 2012
また、腺腫は、以下のように大きくなるほど、がん化するリスクが高くなります。
大腸腺腫が大腸がんを合併する確率
・5 mm以下: 0.46%
・6~9 mm: 3.3%
・10 mm以上: 28.2%
大腸ポリープ診療ガイドライン2014
5 mm以下の腺腫であれば、がんの確率は低いです。
6 mm以上であれば、がんを合併している可能性も比較的高くなってくるため、切除の検討が必要です。
大腸ポリープ診療ガイドライン2014も、6 mm以上の腺腫については、内視鏡的切除を推奨しています。
ただし、5 mm以下でも治療した方が良い場合もあるため、大きさだけではなく、形状などを含めて、総合的に切除の必要性を判断する必要があります。
SSA/Pを切除した方が良い理由
SSA/P (sessile serrated adenoma/polypの略語)とは、ポリープの名前の一つであり、良性ポリープの一種です。
大腸カメラにおけるSSA/Pの所見としては、粘液が付着した平べったい形状をしているのが特徴になります。比較的、発見が困難なポリープの一つです。
SSA/Pは、腺腫と同じく時間の経過とともに、がんに変化していく可能性があり、この機序を“serrated pathway”と呼びます。
SSA/Pは、比較的新しい概念で、診断基準、治療方針などについて学会・研究会で盛んに議論されています。私は以前、学会で以下のようなSSA/Pの症例報告をしたことがあります。
大腸カメラで上行結腸から横行結腸にかけて、SSA/Pが疑われる20mm以上の平坦なポリープを3点認め、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)で切除した。いずれも病理学的にSSA/Pであり、完全切除と診断された。
『20mm以上のSSA/Pを3病変認めた1例』 第3回大腸IEE診断法の統一に関する研究会(2014年) 発表者:永田充
私が学会で報告したこの症例は、がんになる前に切除することが出来ましたが、がん化している症例や、がんの浸潤(粘膜下層深部への浸潤)を伴う症例の経験があります。SSA/Pは比較的、発見しにくいポリープなので、普段の検査から粘液が不自然に付着している領域は、SSA/Pを疑い、注意深く観察するようにしています。
大腸ポリープ切除の方法
代表的な方法として、
・ポリペクトミー
・EMR(Endoscopic Mucosal Resection: 内視鏡的粘膜切除術)
があります。
これらは、“スネア”と呼ばれる金属製の輪を利用してポリープを切除する方法です。
ポリペクトミー
茎のあるタイプのポリープに行われることが多い方法です。
以下、手順をお示しします。
ポリープの形状などを観察して、切除する範囲を決める
大腸カメラからスネア(金属製の輪)を出す
スネアで茎の部分をつかみ、電流を流して切除
切除完了
クリップでキズを閉じる
切除したポリープを回収し、顕微鏡で評価する
EMR(内視鏡的粘膜切除術)
液体を粘膜の下に注入して、病変を浮かせた後にスネアで切除する方法です。
平べったいポリープなどに行われることが多い方法です。
以下、手順をお示しします。
ポリープの形状などを観察して、切除する範囲、方法を決める
粘膜の下に液体(生理食塩水など)を注入
スネアでつかみ、電流を流して切除します
切除完了
クリップでキズ(潰瘍)を閉じる
切除したポリープを回収し、顕微鏡で評価する
大きなポリープの切除方法
スネアの大きさには限界があるため、ポリープが大きくなると、スネアを利用した切除方法(ポリペクトミー、EMR)は困難になります。
無理をすると、不完全な切除になって再発したり、穿孔(せんこう:腸の壁に穴があくこと)が起きたります。
ポリペクトミー、EMRで切除可能なポリープの大きさの目安は、2 cmです。
2 cmを超えるような大きなポリープは、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)の検討が必要です。
日帰りでの大腸ポリープ切除について
日帰りでの大腸ポリープ切除とは、「大腸カメラでポリープが発見された場合、その場で切除し、検査後は帰宅する」、という意味です。以前は、小さなポリープでも入院して切除する病院が多かったのですが、最近は、日帰りで切除する病院が増えて来ています。
注意すべき点としては、病院や医師によって日帰りで切除するポリープの大きさ、数が異なるという点です。
ポリープが大きくなると、出血の危険性などが高くなるため、日帰りでの切除は1 cm程度までに設定されることが多いです。日帰りで切除出来なかったポリープは、後日、入院で切除することになります。
先ほど述べた通り、2 cmを超えるような大きなポリープはESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)が必要になる場合がありますが、ESDは入院が必要です。
ポリープが多数発見された場合は、一度に切除するのは3~5個程度になる場合が多いですが、病院や医師により違いが出やすいところなので、気になる場合は担当医にご確認されると良いでしょう。
大腸ポリープ切除後に注意すること
大腸ポリープ切除は、基本的に安全に受けていただける治療ですが、稀に切除後にトラブルが起きることがあります。代表的なものとして、出血、穿孔(せんこう:腸の壁に穴があくこと)があります。
大腸ポリープ切除後の出血
出血とは、大腸ポリープを切除した部位に出来たキズから血液が出てくることを意味しています。出血が起こると、大腸の中に血液が溜まり、排便時に真っ赤な血液が肛門から出てきます。ポリープを切除して、数日から1週間程度の間に起こることが多いため、この期間は排便時に便器内を確認しましょう。
出血が起きた場合は、速やかに病院を受診して下さい。必要に応じて大腸カメラを行い、出血部位を同定し、止血処置を行います。自己判断で放置すると、血圧が下がって来て危険な場合がありますので、医師の診察を受けましょう。
大腸ポリープ切除後の強い腹痛は、穿孔(せんこう)の可能性があります
穿孔とは、腸の壁に穴があくことを意味します。
日帰りで切除可能な大きさの大腸ポリープの切除において、穿孔が発生するのは非常に稀なことです。
しかし、穿孔が起きると、腹膜炎という重篤な状態になり、緊急で外科手術が必要になる場合があります。
大腸ポリープ切除後に、強い腹痛が起きた場合は、穿孔の可能性があります。そのような場合は、緊急で病院を受診し、医師の診察を受けるようにして下さい。
血液サラサラの薬の内服の可否について
血液サラサラの薬を飲んでいる場合は、大腸ポリープ切除後に出血するリスクが上がる可能性があります。しかし、不用意に血液サラサラの薬の内服を止めてしまうと、脳梗塞などを発症するリスクが上がる可能性もあります。
内服している薬の種類によって、薬を継続したままポリープを切除した方が良い場合、薬を一時的に中断してポリープを切除した方が良い場合があります。
日本消化器内視鏡学会から“抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン”が発行されており、この内容に準じて薬の内服を中止するかどうかなどが判断されます。
自己判断での薬の継続や中止は、危険な場合があるため、大腸カメラを受ける前に医師に相談しましょう。
・ワーファリン
・プラザキサ
・リクシアナ
・イグザレルト
・エリキュース
・バイアスピリン
・バファリン
・クロピドグレル
・プラビックス
※この他にも血液サラサラの薬はあるため、大腸カメラの予約の際は、薬手帳を持参し、医師に内服を続けても良いか確認して下さい。
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